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2009年における情報サービス/ソフトウェア市場は、世界規模で見て約91兆円。日本は1位の米国(39.06%)に次ぐ第2位(7.46%)のソフトウェア大国だ。また、日本企業のグローバル展開が加速しており、今後新興国を中心にIT投資の増加が見込まれる。こうした中、ソフトウェアの違法コピー対策は、WTOによるTRIPS協定、ACTAなどによって、不可避の問題として取り組みを迫られている。一般社団法人行政刷新研究機構主催の『ソフトウェア違法コピー訴訟危機管理』世界の潮流セミナーでは、経済産業省 情報処理振興課 課長の高橋淳氏、弁理士 中尾優氏、政刷新研究機構 理事 佐伯康雄氏ら識者が、その最新動向と対策術を発表した。
模倣品/海賊版による被害の現状
最初に登壇した経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長の高橋淳氏は、統計上、模倣品と海賊版を必ずしも分けていないものが多く、正確に把握できているわけではないが、と前置きした上で、「世界中の貿易額の約2%が、模倣品/海賊版によるものではないかという1つの推計がある」と指摘した。
模倣品とは“真似して作られたもの”ということで、主としてモノづくりの分野で多いものだ。一方、海賊版は“正規のライセンスを受けていないもの”が勝手に流されるということで、ソフトウェアについては基本的にこちらが問題になる。
模倣品/海賊版による悪影響としては、第一に正規品の売上減少が挙げられる。一昨年、特許庁が行ったアンケート調査によれば、回答企業約4300社のうち、約4分の1が何らかの形で模倣品/海賊版の被害を受けたと答え、その金額総計は約1,000億円にものぼる。
「これは最近特に増えているものではなく、一定の規模で定着してしまっているもの。逆にいえば、毎年確実にこれぐらいの損害は出るようになっているということ」(高橋氏)
またその販売ルートを辿って行けば、犯罪組織の財源になっているケースが非常に多く、副次的な社会への害悪も挙げられる。知財制度の趣旨を阻害している点については、いうまでもないだろう。
参考までに、日本企業が模倣品の被害を受けている地域としては、突出して中国が高い。次いで台湾、韓国と続く。また模倣品の製造国としても、中国が高い水準で推移しているという。
世界的な模倣品/海賊版対策:TRIPS協定、ACTA
こうした状況の中、模倣品/海賊版に対する公的な取り組みとして、さまざまなアプローチがなされている。
現在最も機能しているといわれる枠組みが、WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)設立協定の一部であるTRIPS(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights:知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)だ。
TRIPS協定は、知的財産の分野について、世界各国が守るべきルールを作ろうということで1994年に規定されたもの。特許業務法人 有古特許事務所 所長で弁理士の中尾優氏によれば、特許優先権制度などを規定した「パリ条約」と未登録の外国著作権の保護などを規定した「ベルヌ条約」の実質的な履行を義務付けるものだという。
具体的には、商標/意匠/特許の最短保護期間が明記されており、権利行使に関しては、証拠/差止命令/損害賠償といった国内制度が義務化されている。
また加盟国間に紛争が発生した場合には、パネル協議(=知的所有権の貿易関連の側面に関する理事会:TRIPS理事会)でそれを処理することになる。
ただし経済産業省の高橋氏は、TRIPS協定では、入ってくるものが自国の著作権法に照らし合わせて違法なら、輸入国側で差し止めてください、ということは決められているが、輸出についてはまったく何の枠組みも持っていないという点を問題視する。たとえば中国が模倣品を作って輸出をするという時には、何の規制もないということになるわけだ。
「極端な話、TRIPSの枠組みだけでは、模倣品/海賊版は輸出し放題ということになってしまう」(経産省 高橋氏)
また輸入規制の枠組みも、誰か権利を侵害される人が、“こんな製品が国内に入ってきたら自分たちのビジネスがおかしくなるので差し止めてください”と申告して初めて、発動する仕組みになっているという。
そこで現在、日本や米国、EUなどの先進国では、ACTA(Anti Counterfeiting Trade Agreement:模倣品・海賊版拡散防止条約)というものをまずルール化して、その後発展途上国にも加盟を促そうという流れを作ろうとしている。
「ターゲットは基本的に中国」(高橋氏)
ACTAでは輸出規制や税関職員の自主的な輸入規制を義務化して、高いレベルの条約にしようとしている。
「現在大体条文がまとまり、各国へ賛同してくださいという運動を始めたところ」(高橋氏)
当然中国からすれば、ACTAに加盟すれば、自分で自分の首を占めることにもなり兼ねない。加盟するとしても、さまざまな取引材料を持ち出してくることが予想されるが、「我々の一つのゴールとしては、これにきちんと中国を巻き込んでいくということ」(高橋氏)。
【次ページ】企業の盲点となる違法コピーとは?
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