- 2009/12/14 掲載
【連載 第2回】これからの企業で働くための条件(組織編2)
名古屋商科大学大学院教授 アソシエイトディーン 伊藤武彦氏
世界中の社員が、国籍や性別、文化的背景を問わずビジョンを共有できている事は依然として経営者の最大の関心事である。特に経済環境や今後の見通しがはっきりしていないような環境下では、ビジョンが浸透していないと従業員のしらけ、品質の低下、不公正な行為などの温床となってしまう。「なぜ、このような事が起こってしまうのか?」と経営者が首を傾げるような事が起きるのが現場の事実でもある。経営者はこれを知っているが故にビジョンの浸透にいつの時代も関心を払っているし、自らが力を入れている。
その一方で、従業員はどうなのだろうか?前回のリ・エンゲージメントで見たように現在世界中で多くの社員が自分の会社にも、自分の仕事にも誇りを持てていない現実がある。
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(ライトマネジメント資料より) |
彼ら・彼女らが決してビジョンを共有したくない、いらないと言っているわけではない。現実に組織サーベイをするとほとんどの会社での不満因子はビジョンが不明確、上司のコミュニケーション、人事制度への不満のいずれかが上位に来ている。ビジョンを共有する必要性は多くの社員が感じるポイントである。
会社も重要だと考え、かなりの力を使う一方で、社員もビジョンを求めている。しかし、伝わらないという現象が多くの組織で起きてしまう。この現実には二つの側面が影響している。「送る側と受け取る側の定義ギャップ」と「パッションイシュー」である
(理由1)送る側の論理と受け取る側の定義ギャップ
多くのビジョンの浸透の仕方は意外に一方的であり、ビジョンの発信者(センダー)の思い、ロジックで造られ、動き、管理されている。思いを持って作成する・実行するということは重要な要素である。しかし、受け手の土壌や能力、期待を無視してしまうと期待値と実態が容易に乖離してしまう。
実際の乖離を行動変容の五段階で見てみると、社員はビジョンの浸透とはビジョンの文言を知っていること認識し、必ずしもそれを日常的に実践することを意味してはいない。
一方で経営者はビジョンの浸透という言葉の意味は日頃当たり前のように実践していて、いつでもチェックして確認できるような状態を想定して言っている。
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(ライトマネジメント資料より) |
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(ライトマネジメント資料より) |
全社員一人ひとりが「自分は何をすれば良いのか」を知る。この部分が洩れなく出来ているかどうかが重要なポイントになる。そのためには、ビジョンの浸透のキープレイヤーである管理職が会社の大きなビジョンを部門や現場での意味に噛み砕いて話せるようにならなければいけない。
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(ライトマネジメント資料より) |
しかし、肝心の管理職は実際、現場で手一杯であり、ビジョンの解釈・落とし込みに時間が避けていない。本来は業績(短期的要素)とビジョン(長期的要素)の両輪を回す発想とドライブをかけていくべきこの層が、部門評価や業績評価に深く繋がっている業績のKPIから頭が離れられていない。特に景気が悪くなると、長期の事など言っていられない事態も現実にあるため、上司もそれを黙認してしまい「今はビジョンよりもやれることをやろう」と勢いビジョン的な発想を閉じてしまう。
一方、スタッフ層に目を向けると、忙しい上司のせいではないが、絶対的な理解をするための時間がもらえていない。管理職が受けるようなビジョン浸透のためのトレーニングを受けてはいないし、ビジョンブックは配られるが、読み合わせや上司からの具体的な指示がないので、文字通り「見た」で止まってしまう(「読んでない」)。本来、この時間を捻出するのは上司の役割なのだが、肝心の上司にその余裕がないということがネックになっている。この時間を作らせるためには、経営のコミットが重要である。経営者はこの時間を優先して作らせる、その上で業績を追求するようなドライブをかけるということをしたい。
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(ライトマネジメント資料より) |
(理由2)パッション・イシュー
ビジョンを浸透させるキーとなる上司の時間が確保できただけでは、なかなか浸透しないのも現実である。多く見られるのが、上から来たものをそのまま落とす(伝える)という現象である。現実としてこれでは伝わらない。せっかく期待してきた部下も肝心の話しをしている本人に力が入っていない状態ではしらけてしまう。一言「パッションが込められていない」のだ。
では「パッションを込める」とはどういうことなのかというと、ただ熱く語ることではない。自分自身がビジョンに確信を持って自分なりに消化し、共感し、実践する意欲が高まっていることは前提であるが、そのポイントは「ストーリー」と「プレゼンテーション力」にある。
言葉、口調、表情、しぐさといった「プレゼンテーション」での隠れた重要な部分に対してケアがなされていなく、すばらしいビジョンも疲れきった表情でぼそぼそ・清々と読まれ、伝えられてしまっては伝わるものも伝わらない。聞きたいと思っている聞き手も萎えてしまうことを意識して管理職は伝えたい。
また、ロジカルな説明はわかりやすいし、納得も一見得やすい。しかし、ビジョンのような人の本質的な部分に訴える必要があり、いつも心の奥に持っていなければいけないような性質のものにはクールにロジックで伝えるだけではなく、「+パッション」を感じさせる必要がある。それが「ストーリー」である。
ストーリーは難しい。上から落ちてきたビジョンを自部門のストーリーに再構成する翻訳力、そしてそれを魅力ある物語にまとめる構成力・創造力が要求される。また、結果としてこの物語を聞いた後、社員が明日から自分は何をするかが見えるようになっていなければならない。どうにも苦手だというような場合には、管理職者がファシリテーターとなりストーリーをリードしていくようなワークショップ形式などを活用したい。
ビジョンが実践できている会社では、景気が悪い場合に業績を優先させることに変わりはないが、ビジョン的発想・行動をゼロにするようなBlack&White的な行動はしない。1:9でも2:8でも、必ずビジョンと業績の両輪を発想し、行動している。であるから、社員の行動は確信があり、力強い。
どんな時でも両輪発想で進められる管理職育成が最後のビジョン浸透・実践のポイントである。
補足:ビジョンはコンセンサスで造るものではない
以前はビジョンをコンセンサス重視で集団で作るケースが多く見られた。結果、出来上がったものはどの会社も同じような美辞麗句で、一体何をしたいのかが見えない「骨抜き」になったものが多かった。ビジョンは企業の「拘り」である。ある程度経営者がリスクをとって、「拘り」を発揮することが実は社員も求めていることではないだろうか?
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