カスペルスキーはセキュリティの「質」に注力

──実際の手段に目を向けたとき、貴社は特にウイルス対策製品を提供しているわけですが、ウイルス対策製品そのものは既にコモディティ化しているように思います。そうした中、カスペルスキーはユーザーにどのような独自の価値を提供していくのですか？

カスペルスキー氏　確かに、一般のユーザーが現在のウイルス対策製品を正しく評価することは難しいと思います。現状では、セキュリティの専門家や団体の意見を参考にしていただくのがいちばんでしょう。

　自動車産業のように成熟した市場であれば、クルマの性能を評価するさまざまな手法があります。しかし、ウイルス対策製品の市場はまだ若いため、そのような客観的な手法が確立されていません。今後は、客観的な評価を行う第三者的な機関も必要になるでしょう。

　そうしたことを前提に、我々が製品を開発するうえで注力するポイントは3つあります。「検知率」「誤検知率」「リソース消費」です。理想は、検知率100％、誤検知率0％、リソース消費0％の製品ですが、現実にはそうした製品はまだありません。

　1つ言えることは、ベンダーによって重視するポイントが異なっていることです。ベンダーによっては、リソース消費を第一に考えるかもしれません。しかし、カスペルスキーとしてもっとも優先するのが「品質」、すなわち「検知率」なのです。セキュリティ対策製品である以上、セキュリティそのものの質を高めることが最も重要だと考えています。


──日本のエンタープライズ向けセキュリティ市場をみると、既に数社による寡占的な状況下にあり、切り込んでいくのは難しいように思われます。どういった形でこの市場を攻めていくお考えでしょうか？

カスペルスキー氏　カスペルスキーは設立当初、ISPやセキュリティベンダーにエンジンを供給するOEMビジネスからスタートしました。その中で、検知率とパターンファイルの更新頻度の高さなどから、いわゆる業界関係者や専門家から高い評価をいただくことができ、その後コンシュマー向け製品の提供、企業向け製品の提供と、3つのステップを経て、今や全世界で数多くの企業に使っていただくことになっています。

川合氏　日本でも同様で、日本法人を設立した2004年当時はOEMが中心でした。その後、2006年にはジャストシステムさんと契約し、コンシューマー市場で多大な認知を得ることができました。シェアはまだ3～5％ですので、メインベンダーと言える状況にはありませんが、認知度という点では、かなり浸透してきたと思います。そこで次は企業向けを積極的に狙っていくという考えです。

　実はこれまでもお客様の方から乗換案件をいただくことがありました。背景には、いろいろな企業の製品を試しても、結局その期待に応えられなかったという厳しい現実があるようです。今後は、こうしたお客様を積極的に開拓するべく、4月には新たなパートナープログラムも発表させていただきました。今後は、パートナー様を通じて、中堅中小企業に食い込んでいければと考えています。

──日本の企業は保守的という見方もあります。これをどう乗り越えていくのか、今後の活動も含めて、教えてください。

川合氏　確かに日本市場には保守的な一面があります。たとえば、大企業が導入しているという理由だけで、中堅中小企業が大企業と同じセキュリティ製品を導入する例も多いです。

　一方で、品質に厳しいのも日本市場の特徴です。ヨーロッパでは気にされないことも、日本ではフィードバックの対象になります。製品開発における広い視野を養うという点でも、日本市場には大きな意味があります。すでに製品品質をチェックするテストラボを日本で開始しているのですが、今後はさらにリソースを投入し、より本格的なものにしていく予定です。その意味でもカスペルスキーの品質が受け入れられるのではないかと考えています。

カスペルスキー氏　今後、日本では特に法人向けの製品・サービスにも力を入れていく予定ですが、ぜひ強調しておきたいのが、10年、20年という長いスパンでビジネスをバックアップしていく強い意思と準備をしているということです。

──ありがとうございました。