• 2008/07/08 掲載

企業の知識管理を革新するエンタープライズ2.0(1)エンタープライズ2.0とは何か?

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2006年にアンドリュー・マカフィー教授によって提唱された「エンタープライズ2.0(Enterprise 2.0)」がさらなる注目を集めている。本連載では、Enterprise 2.0とは何か?なぜ注目を集めているのか?Enterprise 2.0の概要、その意義、企業での活用方法、そして、将来動向についてテックバイザージェイピー栗原氏が6回にわたって解説する。
執筆:栗原 潔
 Web 2.0の企業版とも言えるエンタープライズ2.0(Enterprise 2.0)が注目を集めるキーワードになってきている。Enterprise 2.0は企業の永遠の課題とも言える知識管理(KM)の課題の解決を大きく進展できる可能性を有している。これから6回にわたり、Enterprise 2.0の概要、その意義、企業での活用方法、そして、将来動向について解説していくこととしたい。

Enterprise 2.0の定義

 Enterprise 2.0とは、2006年にハーバードビジネススクールのアンドリュー・マカフィー教授により提唱された考え方であり、「ブログやSNSなどのWeb 2.0系のコラボレーション・テクノロジーを企業内で活用する」ことを指す。英文になるが、同教授によるスローン・マネジメント・レビューの記事“Enterprise 2.0: The Dawn of Emergent Collaboration”がインターネットからダウンロード可能になっているので興味のある方は参照されたい。

 本来、Web 2.0はロングテール現象などのビジネス・モデル的要素、マッシュアップ、RIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)などのインフラ系要素も包含した包括的言葉である。マカフィー教授はEnterprise 2.0をこれよりもやや限定的な意味で使っていることになる。IT業界ではマッシュアップの企業内活用なども含めてEnterprise 2.0という用語を使うこともあるが、本連載では、マカフィー教授の定義を尊重していきたい。

 なお、ブログやSNSなど、多くの人々が自由に情報交換することで価値を生み出す情報システム・アプリケーションの形態をソーシャル・コンピューティングと呼ぶことがある。その意味では、Enterprise 2.0は「企業内ソーシャル・コンピューティング」と呼んだ方が用語の使い方としては正確であるかもしれない。

 マカフィー教授はEnterprise 2.0の具体的内容をSLATESという頭文字で表している。それぞれ以下のような内容だ。




 これらの各項目のより詳細な内容については本連載の次回以降で解説していきたいが、ある程度熟練したインターネット・ユーザーであれば日常的に行っていることであり、何ら特別なことではない。つまり、テクノロジー的に言えばEnterprise 2.0はそれほど複雑なものではなく、当たり前とも言えるものだ。重要なのは企業内で如何に活用していくかの戦略にある(この点については連載の最終回で詳細に述べていきたい)。

知識管理は企業の永遠の課題

 英エコノミスト誌の調査部門が欧米企業に行った調査によれば、約80%の企業がWebによるコラボレーション(すなわち、Enterprise 2.0)により収益と利益増加の機会が得られると考えている。このようにEnterprise 2.0が注目を集めている理由はどこにあるのだろうか?単にインターネットの世界でブログやSNSが流行しているのでそれを活用してみようかという興味本位の要素もあるかもしれない。

 しかし、根底にある重要な要因は、コラボレーションや知識管理(KM)が企業にとって重要な課題であり続けているにもかかわらず、なかなか有効な解決策がないという問題意識であるだろう。

 情報システムにはさまざまなタイプがある。業務の自動化を行うための業務系、あるいはトランザクション系と呼ばれるシステムにおいては多くの企業が既に効率化を実行できている。この領域でITの価値を疑う者はいないだろう。また、最近になって情報系あるいは意思決定支援と呼ばれるシステム(ビジネス インテリジェンスなどがその代表である)においても、明確なビジネス上の価値が得られているケースが増えている。

 しかし、これらに比べると、知識管理やコラボレーション系のシステムが効果的に活用されているケースは少ないようだ。システムとしては実装されたものの閑古鳥状態になっており、結局、社員のコミュニケーションは通常の会議や電子メールで行われてしまうことも少なくないだろう。調査会社のアイ・ティ・アールによる日本企業に対する継続的調査においても知識管理の課題が常に最重要案件の1つとしてランクされている。まさに、知識管理は企業にとっての「永遠の課題」なのだ。

 一方、Web 2.0の世界を見てみるとブログやSNSでは多くの人々が自由な情報交換を行っている。ブログ間で相互リンク(トラックバック)が張られたり、Wikiを活用したまとめサイトが作られるなど、情報の量も質も向上し、より広いターゲットへと伝播している。まさに「集合知」による価値が実現されている。

 これは知識管理が追求してきた目標と同じである。ゆえに、Web2.0がもたらした価値を企業内で実現できないかと考える企業が出てくるのは当然だろう。実際、先進的企業は2006年以前からブログやSNSを企業内で有効に活用している。Enterprise 2.0とは、そのような先進的企業の動きに後付け的に名前を付けたと考えてもよいだろう(冒頭に挙げたマカフィー教授の英文記事ではそのような事例も紹介されている)。

 ところで、一般に、企業ITの世界よりも一般消費者向けのITが先行している現象を「産消逆転」(産業分野と消費者分野の逆転)、あるいは、「コンシューマリゼーション(Consumerization)」と呼ぶ。Enterprise 2.0はこのような現象の典型例だ。今後は、先進的IT活用のアイデアを求めている企業は、一般消費者分野で成功しているテクノロジーを社内で活用できないかを検討することが有効であるかもしれない。

 次回は、ブログ、SNSをはじめとするEnterprise 2.0の具体的テクノロジーについて検討していく。



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