- 2008/03/24 掲載
税制の混乱は絶対さけなければならない!!租税特別措置法案が3月31日までに成立しない場合の問題
連載『ふじすえ健三のビジネス+IT潮流』
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特に暫定税率の廃止については、マスコミは「ガソリンの価格が一リットル当たり25円安くなる」ことばかりに目がいっていますが、影響はそれだけではありません。政府与党と民主党が合意できないまま、両方の法案が成立しない場合、租税特別措置法で手当てしているいくつかの減税制度がなくなることになるのです。(注:民主党もガソリンの暫定税率以外の減税制度は維持/新設するように法案を出しています。これが成立すれば問題は発生しません)
筆者もこのままガソリン税を除く租税特別措置法が成立しないような状況を回避しないといけないと強く考えます。筆者としては、民主党からガソリン税を除く租税特別措置法案を提出していますので、まずはこの法案を成立させ、関係者の方々に混乱回避を示すべきだと考えます。
今回のこの税制の混乱。
原因はいくつか挙げることができると思います。衆議院と参議院のねじれ、自民党と民主党の意地の張り合い・調整機能の欠如などです。
ただ、根本的な原因は、「本来、税法本体(本則)で対応すべき税制を特別措置としている」ことにあると見ています。例えば、後述する「原料ナフサへの非課税措置は海外ではすべて恒久措置」となっているのです。これを2年ごとに継続をしているのです。
筆者は、15年前に「省エネルギーとリサイクルを促進する特別措置税制」の創設を担当したことがあります。このときの経験をお話ししたいと思います(これは今も変わっていないようです)。
まず、税制の改正・継続については、毎年「税制改革要望資料集」というのが作られます。これは各省庁から出された「税制の継続、新設」の説明書です。税制の継続・新設の要望の数は相当あり、資料集だけでも厚さが4.5センチになります。
役人はこれを「電話帳」と読んでいます。私たちが作った資料は、この電話帳に入りました。確か、B4数枚の簡単な説明で、税制の対象、仕組み、減税額、経済効果などを書きました。そして、筆者が今でも忘れないことが一つあります。それは、自民党税調に所属する議員への説明に伺った時のことです。
議員会館で、局長と一緒に説明をしたのですが、その議員が持っている「電話帳」を見ると「各ページに関係する団体からの寄付額」が手書きで書いてあるではないですか。つまり、○○製品に関する優遇税制であれば、○○業界の団体からの寄付があり、それも評価の項目になっているわけです。
この時、税制をたくさん作るのは、寄付をしてくれる企業を細かく分けて、寄付へのインセンティブを高めるためだ、ということを理解しました。つまり、定期的に税制継続を陳情しなければならないような仕組みを作りだしているのです。
これが今回大きな問題を生み出していると筆者は考えています。
本来、恒久措置にすべき税制を特別措置にして、2年や5年に1回、必ず陳情をしなければならないような仕組みとなっているのです。
今回は、もし租税特別措置法が成立しない場合の影響を説明したいと思います。
1.ナフサなど石油製品等に係る石油石炭税の免税(還付)措置がなくなります。
これは大きな問題となります。プラスチックの原料となるナフサなどへの石油石炭税の課税は、諸外国では例がありません。本来は、税法で課税をなくすべきですが、なんと2年に1回、租税特別措置を行わなければならなくなっているのです。
1978年以降2年ごと今まで14回も特別措置を繰り返しているのです。
免税・還付措置併せて年間約1100億円の負担増(平成18年度)で、同時期の石油化学企業の経常利益の約4割に相当します。もしこの税制がなくなれば石油化学業界は利益が半分近く減ります。石油化学業界の株価は大きく下落することになります。
また、同じ制度で「農林漁業用A重油(漁船燃料、ビニールハウスの加湿用燃料)」の減税措置がなくなります。これに伴い重油価格上昇すれば、中小零細農林漁業者の経営の圧迫することは間違いありません。減税額は40億円にもなります。
2.そして、大きなのが金融マーケットへの影響です。
新聞でも書かれているのが「東京オフショア市場」の「外-外」取引への非課税措置がなくなってしまうことです。日本の金融機関が「国外から調達した資金を国外で運用する取引に係る預金などの利子への非課税措置」が組成特別措置法が成立しないと失効してしまうのです。
この課税が復活した場合、先進国で唯一の課税となります。
この課税が復活した場合、東京オフショア市場の規模約23兆円(負債残高:平成19年9月末)が東京オフショア市場からシンガポール市場などの他の市場に資金を移動することが懸念されます。
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また、「レポ取引」(外国金融機関等との債券現先取引)に係る利子非課税措置がなくなります。
債券現先取引(レポ取引)とは、一定期間後に債券を買戻すことを条件とする債券の売買取引をいいます。
レポ取引は、反復継続して大量に行われます。国際的に定型化された利幅の薄い金融取引という特徴を有します。レポ取引の規模は、約11兆円(非居住者の買残高:平成19年11月末)となっており、金融市場の混乱が起こる可能性があります。
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3.土地の売買等に係る登録免許税の軽減措置が失効
土地の売買による所有権移転登記に対し、本則税率が適用され重い税負担が発生します。特別措置で1.0%となっている税率が本則の2.0%に戻ってしまうので、この減税額は1660億円(平成19年度)もあり、この減税措置がなくなると土地の登録が落ちてしまう可能性が出てきます。
4.中小企業への影響
平成19年3月31日で以下のような税制が期限切れを迎えます。もし税制の申告時までに租税特別措置法が通らないとすると、それをすべて合わせると約4500億円の企業減税がなくなることになります。
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ただ、次の申告時までに租税特別措置法が成立すればこれらの税制は使えることになります。一方、租税特別措置法が申告まで成立しないと「交際費の控除制限」がなくなります。
この控除制限は、租税特別措置法で定められており、(1)期末資本金額が1億円以下の会社では損金算入限度額交際費の額と400万円定額控除額のいずれか少ない金額の90%相当額となり、なんと(2)期末資本金額1億円超の会社では「ゼロ」となるのです。この制限がなくなると企業には大きな減税効果が生じると見られます。
企業の会議費がすべて損金算入できるようになりますので、その減税効果は大きいかもしれません。
その他、中古自動車販売に関しては、特別措置で引き上げられていた自動車取得税の免税額が下がります。本則で15万円であるものを50万円まで特別措置で引き上げており、租税特別措置法が成立しないと15万円以上の中古車には課税されることとなります。この減税規模は140億円あり、 中古車販売業会(1万1,000社、雇用12万4,000人)に大きな影響がでることが心配されます。
このように租税特別措置法は、ガソリンの暫定税率を定めているだけではありません。どんなことがあっても、ナフサ減税、オフショア減税などの減税措置を4月1日までに成立させる必要があります。
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