• 2008/03/06 掲載

いよいよ整う中小企業の事業承継環境―今国会で進む事業継承税制と事業継承法の整備―

連載『ふじすえ健三のビジネス+IT潮流』 

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サブプライム問題、構造改革の遅れ、円高、格差社会等さまざまな要因により景気の先行きが不透明になりつつある日本経済。しかし、どういった環境に陥ろうが、経営者は自社を成長させなければならない。いま、経営者が考えるべき視点は何か。早稲田大学客員教授でありながら民主党参議院議員としても活躍するふじすえ健三氏。ふじすえ氏が注目するビジネスとITの潮流について紹介していく。

 
事業継承税制が大幅に拡大!

ふじすえ健三氏
早稲田大学客員教授
中国清華大学顧問
民主党参議院議員
ふじすえ健三氏
 現在国会で審議されている税制関係法案において、「中小企業の事業継承を円滑化するための税制の拡充」が含まれています。これは、政府与党だけでなく、私が属する民主党からも打ち出された政策で他の税制の議論に巻き込まれなければ成立するものです(民主党はもっと制度を強化すべきと主張していますが)。

 この事業継承税制の改正とともに、相続に関する民法の特例を作る法案も準備が整いつつあります。この法案は、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律案」を本通常国会に提出される見通しです。
 今回はこの法案の中身についてご説明します。

後継者不足で年間7万社と30万人の雇用が消える

 まず、なぜ中小企業の事業継承をうながさなければならないか?
それは、後継者がいなく廃業される中小企業が増加しているからです。中小企業庁のデータによると「中小企業の廃業が年間約29万社ある中で、後継者不足を第一の理由としてあげているケースは、約7万社にもなります。なんと廃業全体の4分の1が後継者不足です。この7万社の雇用は20~35万人と推定され、毎年これだけの雇用が後継者不足で生じていることになります。

 資本金5000万円未満の中小企業経営の平均年齢は、2006年で59.0歳ですが、10年前の1996年では56.05歳でした。なんとこの10年間で約3歳高齢化しているのです。
この調子でいくと2009年には60歳を超えてしまいます。これは、地域経済にも大きな影を落としていると思われます。

事業継承への対応―相続税制度の改正―

 現在、中小企業の相続税には特例措置があり、「事業用の宅地などは、課税が400㎡まで80%軽減」されます。しかしながら、「非上場株式については10%の軽減」しかないのです。
そのため、株式の承継に大きな負担がかかり、相続税を支払い切れず、株を担保に銀行からお金を借りて支払う状況です。返済支払が滞れば、銀行は株式を売り、アッと言う間に会社は人のものになります。中所企業庁の調査では、相続税負担額について、約2割近い経営者が5000万円以上の相続税負担が発生するとしているのです。

 そこで政府は、「平成20年度税制改正の要綱」(平成20年1月11日閣議決定)において、以下のように取り決めました。

 『事業承継の際の障害の一つである相続税負担の問題を抜本的に解決するため、非上場株式等に係る相続税の軽減措置について、現行の10%減額から80%納税猶予に大幅に拡充するとともに、対象を中小企業全般に拡大する。なお、本制度は、平成21年度改正で創設し、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律案の施行日(平成20年10月1日予定)以後の相続に遡って適用する』。

つまり、

(1)株式の相続税の軽減は、今まで一割だったものを8割にする
(2)事業継承税制の対応範囲を今まで株式発行総額20億円未満だったものを中小企業全般に広げる

を行うことになります。

ふじすえ健三氏


 当然のことながら、この軽減措置には、「5年間の雇用の維持」が条件として付されます。経済産業大臣がそれをチェックすることになります。

ふじすえ健三氏
事業承継税制の抜本拡充
政府資料に基づき作成


                                
相続の遺留分への対応

 相続税の他にも遺産相続の遺留分の問題があります。
 下図のようにC、Dがそれぞれ1/6ずつの遺留分を持つため、Bに集中できる財産の限度は2/3となります。これは民法で遺留分が定められており、生前贈与や遺言を用いて資産を集中させることも難しくなっているのです。

ふじすえ健三氏
政府資料に基づき作成


   これに対して、
 ひとつは、『先代経営者の生前に、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けることで、先代経営者から後継者へ生前贈与された自社株式その他一定の財産について、遺留分算定の基礎財産から除外できる制度』を創設します。
政府の文書だとよくわかりませんが、図にすると下のようになります。

ふじすえ健三氏
出典:岡田悟「中小企業の事業承継問題」国立国会図書館
ISSUE BRIEF NUMBER 601(2007.11.27.)


 つまり、遺留分に対して代償を提供することにより、経営権を分散しなくてすむようにできるものです。

 また、次に
『生前贈与後に株式価値が後継者の貢献により上昇した場合でも、遺留分の算定に際しては相続開始時点の上昇後の評価で計算されてしまう。このため、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けることで、遺留分の算定に際して、生前贈与株式の価額を当該合意時の評価額で予め固定できる制度』を創設する。
とあります。

つまり、先代が生きている間に株式を相続し、後継者ががんばって利益を上げ、会社の価値を上げると、相続税が増えるということが起きていましたが、後継者ががんばって分は相続税の対象から除外しようというものです。

相続のためにわざわざ経営を悪くし相続税を節税するという話を私も実際に聞いたことがありました。この制度が整備されれば、後継者の方々もよりがんばっていただけるのではないでしょうか。

ふじすえ健三氏
政府資料に基づき作成


最後に、
中小企業の事業継承を支援することは、中小企業の競争力をそぐものだとの指摘があります。しかしながら、国際的にみると、イギリスは株式の相続は100%免除されますし、フランスは事業資産の85%まで免除、アメリカは130万ドル(約1.5億円)まで非課税、また、ドイツも9割近くまで株式相続の免除率を上げようとしています。

 このように今回の改正でわが国の事業継承制度も先進国と等しくなると言えます。
なお、中小企業は企業数の99%、雇用の4分の3支えています。わが国の経済は、中小企業によって支えられているといっても過言ではありません。

 高度経済成長期に創業した経営者の世代交代期を迎え、中小企業の円滑な事業承継を進めていかなければなりません。事業承継問題で廃業するような事態は、地域経済だけでなく、わが国の経済全体にとっても大きな損失です。

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