• 2025/02/22 掲載

スターバックスが「拒否」され続けた国、それでも数年かけて進出に成功した戦略とは?(2/3)

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店舗数はパリに50以上あることを考えると…

 2018年9月7日、ミラノの大聖堂(ドゥオーモ)から程近いコルドゥージオ広場前にて、元は郵便局として使われていた建物を利用する形でイタリアのスターバックス第一号店がオープンした。2018年当時、イタリアは、スターバックスが進出した78カ国目の国であったと同時に、このイタリア初の店舗は、リザーブ ロースタリー(Reserve Roastery)というスターバックスの特別店であった。

 コーヒー豆の種類も抽出方法も通常の店舗に比べてとても多いスターバックス リザーブ ロースタリーは、コーヒーを楽しむという体験を届けるというコンセプトのもと運営されており、シアトル、シカゴ、ニューヨーク、東京、上海、そしてミラノと世界4カ国6都市にしかない特別店である。

 ミラノ店、つまりイタリアのスタバ一号店は、スターバックスの通常の店舗とは異なる、こだわりのコーヒーメニューを提供するのみならず、デザートやサンドイッチなどフードメニューについては、ミラノ発のベーカリーであるプリンチ(Princi)と手を組んだ。つまりスターバックスのコーヒーを飲みながら、イタリアのピッツァやケーキ、フォッカッチャを味わうことができるのである。

 さらにミラノ店では、アペリティーボという、食前酒におつまみセットがついたメニューも提供している。つまりここでも「餅は餅屋」の方針が見えるように、スターバックスは、イタリアに初めて進出するにあたり、現地のベーカリーの力を借りて、アメリカのコーヒーを売り出そうとしたのであった。

 その後、ミラノでは2018年秋以降、スターバックスの通常の店舗も次々とオープンしていった。2024年現在、ミラノのスターバックス通常店は、ガリバルディ店、ミラノ中央駅店、ロステッリ店、トリノ通り店、ヴェルチェッリ店、サン・バビラ駅近くにあるドゥリーニ店の合計6店舗である。

 またミラノのマルペンサ空港にも店舗があるほか、かつてはトゥラーティ店(在ミラノ日本総領事館のすぐそば)とミッソーリ店(ミラノ大学近く)にも店舗があったがこの数年のうちに閉店してしまった。パリにスターバックスの店舗が50以上あることを考えると、ミラノの店舗数はかなり少ない。

「スタバが老舗を乗っ取った」というフェイクニュースに騒然

 なぜ、スターバックスはイタリアからインスピレーションを得て店のコンセプトを決めていながらも、イタリアでは店舗の拡大が緩やかなのか。

 その理由の一番大きなものとして考えられるのが、イタリアにはエスプレッソをベースとしたコーヒーを提供するバールが数多くあることである。細かく砕いたコーヒーの粉に圧力をかけて抽出するエスプレッソが主流のイタリアにとって、アメリカ式のコーヒーは「薄い」、自分たちが飲むコーヒーとは違うものというイメージが強いのであろう。

 また2018年にスターバックスがイタリアへ進出した当時のイタリアのニュースをいくつか見てみると、ミラノのオンラインメディアであるミラノ・トゥデイ(Milano Today)はスターバックスのことを「フラペチーノの王」(il re del Frappuccino)とはっきり書いている。「フラペチーノの王」という皮肉めいた呼び名からは、スターバックスをコーヒーを飲む場所としては認めないというイタリアの意地も感じられる。

 また、スターバックスがミラノで次々と店舗を拡大していくことを指して、イタリアのグルメ専門の出版社のウェブニュースでは、「ミラノとイタリアを征服するスターバックス」(Starbucks alla Conquista di Milano e dell'Italia)というインパクトの強いタイトルが付けられた。「征服」、大袈裟に聞こえるかもしれないが、エスプレッソの国イタリアにアメリカのコーヒーチェーン店がやってくるというのは、それくらい大ごとであったのだ。

 さらにイタリアの全国版の日刊紙ラ・レプッブリカ(La Repubblica)やコッリエーレ・デッラ・セーラ(Corriere della Sera)でも、定期的にスターバックスの動向について取り上げられており、特にイタリアにスターバックスが進出、店舗拡大をした2018年から2019年にかけてはニュースも頻発していた印象を受ける。

 その一部を紹介するならば、イタリアにスターバックスが上陸するほんの1週間ほど前の2018年8月28日付のラ・レプッブリカで取り上げられた、創業1936年のミラノの老舗菓子専門店のクッキ(Cucchi)がスターバックスに乗っ取られたというフェイクニュースが挙げられる。

 結局これは建築家のチーノ・ズッキ(Cino Zucchi)が仕掛けたお遊びであったが、街の人々は、ミラノの伝統ある菓子店がアメリカンコーヒーの店の進出によって失われるのかと早とちりし、ネット上は騒然となった。 【次ページ】歴史ある「水飲み場」をわざわざ店内に設置したワケ
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