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- 2007/11/05 掲載
【日本型コーポレートガバナンスを求めて】社外取締役に求められるものとは/ 法政大 嶋口充輝教授(2/2)
会社の内実に精通しないほうがいい
─取締役の構成はどのようなものなのでしょうか。
嶋口●私が勤めていた時代の話をすると、指名委員と報酬委員は同じ3 名で、私のほかは日本人の弁護士とアメリカ人の弁護士の方でした。私は指名委員会の委員長を務めました。監査委員の場合は社内監査役のほかに、外部の経営者、公認会計士、それに弁護士などですね。議長は、当初はエーザイ会長が務めていましたが、現在、兼松の会長である倉地正さんが議長を務めておられます。
ちなみに内藤晴夫社長だけは、CEO とCOO を兼務し、取締役でもあり、執行役の長でもあります。
任期は1 年で、原則3 年まで再任可能です。私は指名委員長だったので、在任中は財界の方々や大学関係者など2 0 人ほどの人とお会いして、次の取締役を選ぶ作業に集中しました。ところが透明性や独立性が担保されないといけないので、結構人選は難しいのです。取引関係があってもだめですし、もちろん親族などでもいけません。政府の審議会などの委員を何かやってらっしゃる場合も、ケースによってはその業界と関係性が深いと判断される場合もあります。そのため法律の専門家や大学関係者などが多くなってきます。私の場合は、指名委員会の後任としては組織論の大学教授にお願いし、また財務に強い外資系コンサルタント兼ディレクター、さらに大メーカーの社長などにご依頼し、ご快諾いただきました。
─「社外取締役は果たして有益なのか?」という議論がまだあると思いますが。
嶋口●よく言われるのは、その業種や会社の内実に精通していなくて取締役ができるものかということだと思います。従来型の日本の株式会社の場合は執行役と取締役が同じ人ですから、確かにそれでは内実を知らない人には務まりにくいものだと思います。しかし、社外取締役の場合は、コーポレート・ガバナンスの舵取り役であり、外部的な立場から貢献する役目ですから、むしろ内実は知らなくてもかまわない。知ってしまえば温情も生まれるでしょうし、「そうは言っても仕方がない」という仲間論理に縛られてしまいかねないからです。それに、内部のことはどう頑張っても、その会社で何十年も努力してきた方々にかないません。
最初の論点にあったように、むしろ株主や社会の視点のほうが重要なのです。そのため、自分の専門領域での経験や知識があればいいのです。かつて、雪印事件が起こってしまいました。ところが、そのときの教訓が生かされてきたかというと、そうではない会社が多かったことが今回の不二家などのケースからわかるわけです。これは決して同族企業、オーナー系企業固有の問題ではありません。しかし、執行とガバナンスが区別されないオーナー系企業では、不祥事が起こる可能性がやや高いということは言えるかもしれません。エーザイもある意味ではオーナー系企業ですが、問題を抱えていたから委員会等設置会社に移行したわけではありません。転ばぬ先の杖を求めたのです。当然やるべきことをやっていない企業が、いまだに多いと思いますね。
(図)大会社の機関の関連図
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企業にとっての取締役会の存在意義
─委員会等設置会社はわかりやすいのですが、取締役会の中に一部社外取締役が入っている場合や、アドバイザリーボードの場合などは、その点いかがでしょうか。
嶋口●執行役が取締役を兼任している場合は、自分の部門のことは言えても、他の部門のことをとやかくは言えないものです。その点、社長であり、社外取締役が重要になってくるわけです。社外取締役は会社にとっては確かに異分子であり、嫌われ者である場合もあるかもしれません。しかし、異分子であることが、会社の取締役会をより価値あるものにするという側面もあります。たとえば、それまでは社長が一方的にしゃべるのを聞く場であったものが、社外取締役が入ることで、いい意味での緊張感が生まれ、会社の理念をどうすべきか、残業時間をどうすべきか、リスクマネジメントをどう考えるかという論議が必然的に議題になるのです。そういう意味で、会社に与えるインパクトは小さくありません。
最初はきれい事かもしれませんが、現代は、そのきれい事が求められているわけであって、社外取締役としては、そのきれい事がちゃんと履行されているかどうかを問わざるをえないのです。外部の目が会議にあることで、襟元を正すことができる。今までは株主総会対策だけを考えればよかったわけですが、そうではなくなる。まさに、世の中が変われば会社の体制や体質も変わらざるを得ないのです。そうしたことが、徐々に浸透しているのではないでしょうか。私が社外取締役を勤めさせていただいている石井食品も、雪印事件の後、もう一度、安全面の総点検を行いました。クライシスマネジメントも見直しました。そうした文脈のなかに、社外取締役も位置づけられているのです。
─アドバイザリーボードについてはどうでしょうか。
嶋口●アドバイザリーボードや経営評議委員会は、代表取締役以下、5 人から1 0 人の取締役が、だいたい同数のアドバイザー、あるいは評議委員とテーブルを囲んで意見交換をするというものです。こちら側に決定権はありません。会社の方針や現在の課題に対して専門的な立場から意見を述べるわけです。経営のアドバイスであり、直接決定することはなく、統治的なコーポレート・ガバナンスとは違います。
委員会等設置会社の取締役会の場合、取締役は株主総会の委託を受けて仕事をしています。そのため、限定責任ではありますが、株主代表訴訟を受けるリスクをもっているわけです。そうしたなかで、株主や他のステークホルダーの立場から企業価値を上げるために問題はないかを吟味します。経営の健全性のみならず、コンプライアンス問題であるとか、セクハラについては大丈夫かとか、内部告発のメカニズムはあるかとか、考えるべき点は少なくありません。あくまでも株主の代表として執行役と接しているわけで、第三者の立場から企業価値の下落を防ぐというのが、社会の公器としての取締役会の存在意義であるわけです。
〈執筆:赤城 稔、写真:郡川正次〉
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