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- 2024/06/26 掲載
EVや太陽光パネルなど中国の「過剰生産」が有害なワケ、世界が危惧する“あるリスク”
連載:小倉健一の最新ビジネストレンド
G7が懸念する中国の「過剰生産能力」
中国は帝国主義的な通商政策を繰り返し、世界の自由貿易を脅かしている。具体的には以下の2点が挙げられる。1.過剰生産:中国は電気自動車(EV)、電池、太陽光パネル、汎用半導体など、汎用性の高い製品を過剰に生産し、市場から西側企業を駆逐している。
2.レアメタルの支配と輸出規制:半導体やLED、太陽電池などの電子部品の製造に欠かせないレアメタル「ガリウム」の圧倒的なシェアを確保し、輸出規制を行っている。
中国は製品を過剰に生産する一方で、原材料には厳しい規制を課すという両面からの戦略を通じて、世界覇権を握ろうとしているのだ。
G7サミットが2024年6月13日から15日にかけてイタリア・プーリアで開催され、最終日にはG7首脳の共同声明(コミュニケ)が発表された。コミュニケでは、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの衝突、インド太平洋地域の情勢、アフリカ諸国への支援、経済的強靭性と経済安全保障、人工知能(AI)ガバナンスの取り組みの方向性など、幅広い内容が示された。
ロシアが優勢になりつつあるウクライナ情勢や、終わりの見えないイスラエルのガザ戦争など、世界には頭の痛くなるような問題が山積している。しかし、日本経済という観点に立つと、見逃してはならない内容が含まれている。
「インド太平洋地域:同地域の平和と安定が世界の繁栄を促進するカギであり、同地域の発展が世界の安全保障に直接影響を与えるとして、その重要性を強調した。一方で、中国の非市場的政策や慣行が有害な過剰生産能力につながって、市場を歪(ゆが)め、G7各国の労働者や産業、経済的強靱性と安全保障を損なっていると懸念を示した。G7各国はデカップリングや内向き志向を企図しているわけではないとしつつ、必要かつ適切な場合には、サプライチェーンのデリスキング(リスク軽減)と多元化に取り組み、経済的威圧に対する回復力を強化するとした。また、競争条件を平準化し、損害を是正するために、必要かつ適切な行動を取り続けるとした」
(JETRO 「G7プーリアサミット共同声明、中国の過剰生産能力に懸念表明」)
この条文をわかりやすい言葉にすると、次のようになる。
インド太平洋地域は、世界の安定にとって極めて重要な場所である。しかし、この地域には中国という国家が存在し、非市場的な政策や慣行を行っている。不透明な補助金や税優遇、有害な過剰生産能力など、これらの行為により市場が歪められ、安全保障上の懸念が生じているのだ。G7としては、サプライチェーン(製品の生産から流通までの過程)におけるリスクを分散させるために、多国間での協力を強化し、特定の国に依存しない体制を整える。また、重要な材料や部品の調達先を多様化し、一国の影響力を最小限に抑えることで、経済的な脅威に対する耐性を高める。さらに、公平な競争環境を確保するための国際ルールの遵守を徹底し、不公正な貿易慣行に対抗する。このような取り組みによって、インド太平洋地域の安定と繁栄を維持し、グローバルな経済安全保障を強化することがG7の目標である。
といったところだろう。
太陽光発電市場は「中国依存」が浮き彫りに
中国の不透明な補助金や税優遇による過剰生産能力を「有害」とはっきり断じているのは、G7の強い意志の現れである。これまで中国の製品輸出は、誰もが予想していたよりも速いペースで進んでおり、中国の製造業黒字(輸出する製品と輸入する製品の差額)は、すでに世界国内総生産の2%近くに達している。この数値は、1980年代の日本や2000年代初頭のドイツをはるかに上回っている。
特に、鉄鋼、アルミニウム、特定のクリーンエネルギー技術などの一部の産業では、中国政府による大幅な支援が行われており、その結果、世界市場が完全に氾濫している。
中国は近い将来、特定の太陽光パネルの部品の95%近くを生産することになるというデータがある。
- 中国は2011年以降、欧州の10倍にあたる500億米ドル以上を投資
- 現在、太陽光パネルの全製造段階(ポリシリコン、インゴット、ウェハー、セル、モジュールなど)における中国のシェアは80%を超えている
- 世界は2025年まで、太陽光パネル生産の主要な構成要素の供給をほぼ完全(95%近く)に中国に依存することになる
(2022年7月IEA「太陽光発電のグローバルサプライチェーン」)
このようにして、太陽光の次はEV、そして汎用半導体へと中国は過剰生産戦略を採用して、世界中で西側企業を市場から現在進行系で駆逐している現状がある。 【次ページ】資源の乏しい日本が取るべき「貿易政策」とは
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