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- 2024/05/22 掲載
「マイナ保険証」強制問題、公的証明書への1本化で見えるのは「増税」か
連載:小倉健一の最新ビジネストレンド
公的証明書をマイナに「一本化」は既定路線に
2023年9月、河野太郎デジタル大臣は、「健康保険証や運転免許証、在留カード、そのほかカード、資格証など、全部マイナンバーカードにもれなく一本化し、(一本化を)加速をしていきたいと思っている」と発言しており、あらゆる公的な証明書が、マイナ保険証に一本化されていくのは既定路線となっている。弁護士で地方自治研究の専門家の神奈川大学法学部・幸田雅治教授は、マイナ保険証制度について、以下のように指摘している。
「国は、医療機関や保険薬局に対して、マイナ保険証制度の導入を強制したと言われても仕方のないやり方をしたのです。ですが、根本的なことが間違っています。『療養担当規則』は、法律でなく省令(規則)です。法律の根拠を欠くもので義務付けているというのは大問題です」
(カンテレ・2024年5月20日)
しかし、現在、イノベーションの推進を支持する立場の識者やコメンテーターが、マイナ保険証の導入を歓迎している。彼らの発言を聞くと、今起きているマイナにまつわるトラブルが、あたかも「木を見て森を見ず」の議論であり、「大きな制度変更をするのだから、初期トラブルには目をつぶれ」「世の中にゼロリスクのことなどない」と主張し、マイナンバーカードの普及を推進させようとしている。
ほかにも、NHKニュースに登場したマイナンバー制度と情報管理に詳しいと紹介されている弁護士は、なぜか政治家や役人が個人情報を覗くことは、「違法」だから起こらないという説明を行っている。
これらの発言は本当だろうか。筆者自身、イノベーションがどんどん起きてほしいという立場の人間であるが、このマイナンバーカードについては一貫して懐疑的な立場をとってきた。
気づかぬうちに個人情報はどんどん盗まれる
かつて、サイバーセキュリティを専門とする米国企業の役員に、マイナンバーカードについて話を聞いたところ、「新しいサイバーセキュリティを導入すれば、確実にハッカーからの侵入が起きる。これは管理者がどんな制度設計をしていようとも当然の前提だ。日本のマイナンバーカードは、セキュリティへの懸念から、暗証番号を二重にし、ログイン時にミスを繰り返すとすぐにロックがかかり、役所へロックの解除をしにいかなくてはならない。しかし、どんなに入口のセキュリティを高めても、ハッカーたちからすれば無意味な防御壁だ」
と話していた。
米国でも個人情報漏えい事件は頻出しており、たとえば、2017年には、消費者の信用度を計算する米国の信用調査会社大手エキファックスが大規模なハッキング攻撃に遭い、1億4500万人分の社会保障番号(Social Security Number、通称「SSN」)が個人情報(名前、住所、生年月日、運転免許証番号、クレジットカード番号)とともに漏えいしてしまった。
インターネット犯罪を捕捉するために2000年にFBIによって設立された「インターネット犯罪苦情センター」が公表したデータを見ると、米国では2016年に29万8728件の被害の申し立てがあった。それでも同センター長はこの件数は「サイバー犯罪被害者全体の約10~12%にすぎず、全世界の被害者の数分の一にすぎない」(ニューヨーク・タイムズ・2018年2月5日)という。
誰も気づかない間に、個人情報はどんどん盗まれてしまうと考えたほうがいい。先の弁護士は、現在の行政や政治家が、違法に個人情報を覗いているという実態を知らないのだろう。
婚約相手の出自を調べる際にも役所の情報は漏えいしていたし、個人の医療情報やクリニックの医療状況などは比較的簡単にアクセスできる。違法だからやらないというのは、あまりにも安易な考えだ。 【次ページ】なぜ?「偽造マイナンバー」の被害が拡大するワケ
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