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  • 2006/07/18 掲載

現代マーケティングの成功原則と対応 /慶応義塾大學教授 嶋口充輝氏(2/3)

論理的原則と経験的原則を中心として

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事業運営の論理から生まれる
経営的マーケティングの意味

 実はこの坪内氏の会社再建の原則をマーケティングに絡めて最も適切、正確に指摘したのが、実践経営の泰斗、ピーター・ドラッカーである。彼は事業の本質はバクチなどと違って永続性(ゴーイング・コンサーン)にあるがゆえに、事業の第一義の目的は顧客創造にある、と強調する。顧客基盤のない事業など成り立ち得ない、という彼の意図は、収入をつくるベースが顧客であるがゆえに、まず収入があって初めて事業が成り立つという坪内氏の主張とも一致する。

 ドラッカーはそのための最も重要な役割が顧客満足を事業理念にしたマーケティングとイノベーションの2大機能と指摘するが、ドラッカーのいうこの二つの機能を総称したものが今日の「経営的マーケティング」なのである。この経営的マーケティングのエッセンスは、映画監督の故・伊丹十三氏がその映画づくりのモットーとした「人の欲するものを、人の予期せぬかたちで」に集約される。

 ドラッカーのこの二つの狭義の機能に対応させれば、人の欲する仕組みをつくる「マーケティング」と、そこに予期せぬ新基軸を盛り込む「イノベーション」とを統合させた「成長の仕組みづくり」が、現代の経営的マーケティング機能となる。

 この経営的マーケティングを軸に顧客基盤(つまり収入ベース)をつくったら、それに合わせて、ヒト、モノ、カネ、ノウハウや情報などの経営資源(つまり支出)を、集中と選択で配分し、結果として利潤を得ることになる。ドラッカー以降の多くの実践経営学者や優れた経営実務者が言い続ける「事業の唯一の目的は顧客創造だ」「利潤は目的でなく、結果にすぎない」という指摘は、まさに「収入より少なく使う」という論理的原則と、そのためにはまず顧客満足によって収入をつくることが、事業の存続と成長にとって最優先課題だ、ということを指摘しているにすぎない。

 このように見てみれば、経営におけるマーケティングの役割がいかに大きいかが理解できる。マーケティングはドラッカーや多くのマーケティング研究者が指摘するまでもなく、まさに事業目的たる顧客創造と維持の仕組みづくりや成長戦略に関わる経営機能であり、人材開発、生産、営業、財務、研究開発、情報などに関わる各部門や担当者は、マーケティング機能を前提にしてそれぞれの役割を対応的に果たしていくコスト・センターになる。本来のマーケティング機能が特定の部門を持たない「エブリワンズ・ビジネス」だといわれたり、「マーケティングのみが成長をつかさどる唯一の経営機能であり、ほかの諸機能はそのためのコストだ」といわれるゆえんでもある。

この論理的原則は図(参照)に示すように、事業運営においては常に上から下に向けてその努力を行うこと。間違っても、結果としての利潤を目的にして、そのために統制可能な経営資源を利潤のために減らすような安易な方法を取らぬこと。さもなくば、顧客創造と収入づくりの原資がなくなり、結局、事業は永続性をまっとうできなくなる、という原則である。

成長企業の共通項も
顧客創造による明日の収入の確保

 1980年代に米国で創設された経営分野の大統領賞、マルコム・ボルドリッチ・ナショナル・クオリティ・アワードでも、現代の優れた経営は、顧客や市場主導でなければならず、それゆえに顧客満足を最重視したマーケティング重視の経営が優秀企業の条件とされた。その後の優れた経営改革、たとえば、'80年代後半における米国ゼロックスのポール・アレア改革、'90年代のIBM・ガースナー改革なども、基本的には顧客満足を軸にして、内向きの組織を外向きに変えたマーケティング革新であった。国内の成長企業、トヨタ、キヤノン、セブン-イレブン、ヤマト運輸など、すべてこの論理原則にのっとっている。

 2000年に入って大きな改革の話題になった日産自動車のゴーン改革も、基本的には収入づくりに直接関わらない遊休資産の処分、供給業者の大胆な見直し、遊休生産工場の閉鎖などで大胆なコストカット(支出見直し)を断行し、もう一方で、収入づくりに関わる製品ラインの強化や販売店改装、伸びのある米国市場対応の米国工場の増設などを行っている。世間で言われる、大胆なコストカットによる史上空前の利潤も、収入を減らすような経営資源の削減では意味がなくなってしまう。

 さらにいえば、史上空前の利潤が日産自動車の明日を保証するのではなく、あくまで消費者が日産自動車の車を喜んで買ってくれるか否か(つまり顧客創造とその収入)が明日の日産をつくるのである。
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