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- 2023/02/12 掲載
中島聡氏が断言、「イノベーションは、コードから生まれる」と言えるワケ
中島聡氏が語るWeb3の未来
中編はこちら(この記事は後編です)
日本のIT産業は、なぜGAFAMに勝てないのか
ここで、コードを書くことの重要性について再度強調しておくことにしましょう。
ソフトウェアエンジニア自身がコードを書くかどうか。このことが米国と日本のIT産業の明暗を分けた、私はそう考えています。
ゲームを除き、日本のIT産業は世界ではまったく存在感を示せていません。
かつて任天堂、ソニー、セガの3社は、世界のゲーム市場を席巻していました。この3社は世界市場に向けたゲーム機器を開発・販売し、日本国内でもゲームを作るソフトウェア企業が成長してきました。また、モバイルゲームでまだ頑張っている日本企業がいるのは、ドコモが世界に先駆けてiモードという「ネットにつながる携帯電話」のプラットフォームを作ったからといえるでしょう。日本発のプラットフォームがあったからこそ、その上にソフトウェアビジネスが花開くことになりました。たくさんの小さなスタートアップがゲーム好きの開発者を集め、プラットフォーム上で小規模な開発を行ってきたことが、ゲームビジネスの隆盛につながったのです。
一方、現在ゲーム以外のプラットフォームはすべてグーグル、アップル、マイクロソフト、アマゾンなどのビッグテックに握られています。
なぜこうなったのでしょうか。
それは、国際的に競争力のある、魅力的なソフトウェアプラットフォームを日本のIT業界が作れないでいるからです。
日本では、ほとんどのソフトウェアが顧客からの注文による「受託型」で作られています。家電メーカーなどについても例外ではありません。大手メーカーは毎年大量に理系の学生を採用していますが、日本のメーカーに勤めているかぎり、ソフトウェアエンジニアとしてのキャリアを積むことはできない仕組みになっています。たとえソフトウェア部門に配属されたとしても、数年すればプロダクトマネージャーとして仕様書作成や外注管理をすることが主な仕事になります。日本の大企業では、ゼネラリストとして管理職に就くしか出世の道はありません。
こうした企業からソフトウェア開発を受注する企業(プライムベンダー)にも、プログラムを書けるソフトウェアエンジニアはあまりいません。NTTデータなどのプライムベンダーも大手メーカーと同様に理系学生を採用していますが、出世するにはやはり管理職になるしかありません。
そんな状況でどんなことが起こるかというと、二つあります。
まず、プライムベンダーの社員は、顧客から要望を聞いて仕様書だけ作り、下請け企業に丸投げします(プライムベンダーは、建設業になぞらえて「ITゼネコン」とも呼ばれます)。
私が大学卒業後に仕事をしていたNTTもそうでした。NTTの研究者がものすごく丁寧なフローチャート(注1)を描き、それを下請けに出すとコードが上がってくる。しかし、実際にプログラムを作ったことのある人ならわかりますが、紙の上で設計したところでプログラムは絶対にそのとおりには動きません。大まかに仕様を設計したら、何度も作っては直しのフィードバックを行い、仕様変更を何度も行う必要があります。
しかも、NTTと下請けでは歴然とした上下関係があり、下請けが設計に文句を付けることなどできません。こんなことをしていては、プログラム開発の効率も品質も上がるはずがないのです。日本の大手IT企業はいまだにこうした状況から抜け出せていないように見えます。
一方、下請け企業のエンジニアの質にも問題はあります。日本だと優秀な理系学生の多くは、知名度の高いメーカーやプライムベンダーで働きたがり、下請け企業は優秀なソフトウェアエンジニアをなかなか採用できません。さらに、下請け企業への仕事量は変動が大きく、あまり正社員を抱えられない構造になっています。結果として、プログラミングが好きでも得意でもない人が、ソフトウェアのアーキテクチャ(基本設計)を理解しないまま、仕様書どおりにプログラムを書くというとんでもないことが起こっています。
これに対して、米国のビッグテックは、コンピュータサイエンスの修士号、博士号を持った優秀な人材を高給で雇っています。こうしたソフトウェアエンジニアは、喜々としてプログラムのコードを書き、日々新しい革新的なソフトウェアを生み出し続けています。そうして作られたソフトウェアはさまざまな分野にイノベーションを起こし、ビッグテックのプラットフォーム化を強力に推し進めていきました。もちろん、米国でも受託型のソフトウェア開発企業はありますが、そうした企業であってもソフトウェアエンジニアを自社で雇用してコードを書かせています。さらに、近年ではウォルマートのように、ソフトウェアエンジニアを雇って自社のシステムを内製する企業も増えてきました。
ITサービスを事業として展開しているかどうかとは関係なく、ソフトウェアは企業競争力の源泉なのです。
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