- 2025/03/24 掲載
アングル:新年度も超長期債に需給不安か、日銀利上げ警戒 変動リスク意識
[東京 24日 ロイター] - 金利の絶対水準は魅力的だが、変動リスクが障害になり、投資に及び腰になっているのではないかーー円債市場では超長期債を巡って投資家の動向を読みあぐねる声が出ている。米関税政策の不確実性に加えて、日銀の早期利上げが意識される中、金利リスクの観点から中短期ゾーンに買いが集まりやすく、新年度入りしても超長期債の需給不安は続きやすいとみられている。
<地合い好転の兆し見えず>
足元の円債市場全般について三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア債券ストラテジスト、鶴田啓介氏は「ファンダメンタルズ要因による金利上昇一服や金利低下がなければ、新年度に入っても投資家のセンチメントが改善するとは考えにくい」と指摘する。
今年に入り、日銀の利上げペースの加速が意識され始めた。ニッセイ基礎研究所の金融調査室長、福本勇樹氏は「市場では適度な金利水準が不透明で、思惑が錯綜している」という。ターミナルレート(利上げ到達点)の見方にばらつきが大きいと、金利は上昇方向に働きやすいという。
日本の防衛費増強を巡る思惑や石破政権の支持率低下をきっかけに将来的な財政悪化への懸念が浮上。3月期末という季節要因も市場のボラティリティーを高める大きな要因となり、円債市場の地合いは一段と悪化した。新発40年債は一時3%と、過去最高水準に到達。これにつれて、新発30年債は約19年ぶり、新発20年債は約17年ぶりの水準を付けた。
日本証券業協会が21日に発表した2月の公社債売買高によると、超長期債の主要投資家である生損保勢は同ゾーンを3749億円売り越し、24年8月以来の売り越しに転じた。
金利上昇に伴い「含み損の拡大で損切りの動きが出たほか、資産サイドと負債サイドがデュレーションギャップを埋めるのではなく、むしろ逆になり、資産サイドを過剰にヘッジしているため売られたようだ」(国内証券ストラテジスト)という。また、都銀も超長期債を大きく売り越している。
3月についても、金利上昇に伴う損切りの動きや年度末の残高調整も重なり、国債を売り越す業態が増えると予想されている。2月に大きく超長期債を買い越した海外勢も、足元でフラットナー・ポジション(超長期債買い/中長期債売り)の巻き戻しの動きが出ていることを踏まえると、買い越し額が大きく減る可能性がある。
<早期利上げ観測、年限短期化に作用>
日銀の早期利上げ観測は金利変動リスクを避けたい投資家にとって、年限短期化を促す要因になる。
実際に10年債や20年債を中心に運用していた一部の系統機関は、足元の金利が上昇したこともあり「中期ゾーンでスプレッド(上乗せ金利)が付く事業債への投資に興味を持ち始めている」(国内証券債券セールス担当)との声が出ている。
また、含み損を抱えられない金融機関は相対的にボラティリティーの低い年限の短い国債に資金を向けている。短国市場では、3カ月物国庫短期証券を中心に堅調な需要が確認されている。同国庫短期証券の利回りは0.3%台を中心とした推移が続くなど、政策金利の0.5%を下回る水準で取引されている。担保需要に加えて、「根強い金利先高観を背景に、より短い国債のニーズは引き続き強い」(国内金融機関)という。日銀当座預金に資金を待機する動きも広がりやすい。
<構造要因、超長期債に金利上昇圧力>
利上げ局面では一般的にイールドカーブはフラット化しやすいとみられているが、「財務省による高水準の国債発行が続く限り、構造的な問題は変わらず、2月前半にみられていたようなイールドカーブのフラットニング一辺倒という動きは厳しい」と、三菱モルガンの鶴田氏は話す。
ボラティリティーが高くなると、超長期債はリスク対リターンの観点から手控えられやすい。債券投資のベンチマークとされる野村BPIのリターンが悪化傾向にあることを背景に年金勢が最低限の買いにとどまる可能性があるほか、経済価値ベースのソルベンシー規制対応の買いが一巡した生保勢からは積極的な購入は見込みづらい。ただ「3月に入り、利回り水準が1.5%台の長期債を生保勢が買い始めている」(前出の国内証券債券セールス担当)との声も出ている。
日銀の国債買い入れが段階的に減っていく見通しの中、「(日銀の国債保有によって金利を抑制する)ストック効果の減少が見込まれる上に、買い手不在となることから、超長期ゾーンには金利上昇圧力がかかりやすい」(ニッセイ基礎研の福本氏)という。
一方、4月から30年債、40年債の発行額が減ることや、金利リスクを取らずに収益を得られる超長期債とスワップの金利差の縮小を狙った裁定取引が再び活発化すれば、アセット・スワップ見合いの買いが入り、超長期債のサポートになる可能性は残る。
(坂口茉莉子 編集:橋本浩)
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