- 2025/03/03 掲載
アングル:中国の銘酒「茅台」、不景気や嗜好変化で販売不振 貴州省財政にも暗雲
[茅台(中国・貴州省) 3日 ロイター] - 中国の代表的な「火酒(蒸留酒)」の茅台酒は国内消費市場の動向を測るバロメーターであり、メーカーが拠点を置く貴州省にとって貴重な財源でもある。しかし近年は不景気や消費者の嗜好の変化などを背景に販売が鈍っており、多額の債務を抱える貴州省政府の財政への影響が懸念されている。
春節(旧正月)前の数週間、製品名の由来となった貴州省・茅台村には贈答用に茅台酒を購入しようと観光客が押し寄せるのが通例だが、今年は明らかに人出が少なかった。地元酒店の店主は「以前は北京から飛行機でやってきて3000元(約412ドル)以上もする茅台酒を年に何度もまとめ買いする客がいた。今では価格が1699元に下がったのに、景気が悪すぎて誰も買おうとしない」とぼやいた。
地元メーカーの貴州茅台が製造する茅台酒は、何十年にもわたり結婚式や仕事上の夕食会、国家行事に欠かせない酒だった。しかしここ2年間は消費者や企業の景況感が悪化したことで販売が打撃を受けている。
カリフォルニア大サンディエゴ校のビクター・シー教授(政治学)は、貴州茅台の強力なキャッシュフローは「絶え間なく到来する貴州省政府の債務返済を支援する戦略の重要な一部だ」と指摘。貴州茅台の利益が減少すれば省政府にとって深刻な問題になるとの見方を示した。
上海証券取引所上場の貴州茅台は、親会社である茅台集団が筆頭株主で、茅台集団は中国の省で2番目に負債額の多い貴州省が全額出資している。
貴州茅台の貴州省への貢献は絶大だ。大口の雇用主であるだけでなく、同省が収入を確保し、債務を返済する上でも極めて重要な存在になっている。
しかし景況感の長期低迷で貴州茅台の株価や販売価格は大幅に下落した。同社の株価は2021年の最高値からほぼ半減。看板商品であるアルコール度数53度の「飛天」(500ml)の販売価格も24年初めの2700元(約371ドル)から最大22%下落した。
<逆風は継続か>
貴州茅台は2023年後半に飛天の出荷価格を20%引き上げたため、24年の売上高伸び率が目標を15%上回った。しかし今後も成長を維持できるかは依然として不透明だ。
証券会社や企業幹部の推計によると、貴州茅台は過去10年間に生産した在庫の少なくとも50%が消費に回らず、投資目的で保管されている。これらの在庫が大量に市場に流出すれば製品価格や株価が下落する恐れがある。UBSは「飛天」の販売価格が2025年半ばまでに2000元を大きく割り込む可能性があるとの予測を示している。
価格の下落は茅台酒の高級ブランドとしての評価にも影響しそうだ。北京のプライベートエクイティー企業のマネージャー、ジョージ・リウ氏は「茅台酒を飲むということは、その人が重要で成功した人物であることを示す。価格が下がれば飲む意味がなくなる」と述べた。
一方、上海に拠点を置くチャイナ・マーケット・リサーチ・グループのマネージングディレクター、ベン・キャベンダー氏は茅台酒が人口動態の変化にも直面していると見ている。「アルコール度数の高い蒸留酒は伝統的に年配の男性向けの酒で、35歳以下の消費者の多くは好まない」という。貴州茅台は若年層を取り込むため、カフェラテやアイスクリームとのコラボレーションなど手頃な価格の商品を展開しているが、「目立った効果は出ていない」(キャベンダー氏)という。
さらに貴州茅台は外国での展開を成長戦略の一つとして掲げているが、国内市場の減速を補うには不十分だと見られている。
<揺らぐ貴州省の財政>
貴州茅台の経営不安は貴州省の財政にも暗雲をもたらしている。
赤・白・青の配色の貴州茅台のロゴは貴州省の公共事業の場の至るところで見られる。同社の従業員数は3万人を超え、貴州省の税収の20%、省内総生産(GDP)の5%を占める。省内の高速道路建設会社の救済に動いたほか、道路、鉄道、空港、病院などの公共インフラにも資金を提供してきた。
一方、貴州省は2023年末時点の債務が1兆5000億元に達し、前年末から26%増加。債務の対GDP比は72%に達している。
スイスのザンクトガレン大のグイド・コッツィ教授(マクロ経済)は、貴州茅台の成長鈍化は貴州省の財政支援能力を制限して「最終的に借入コストを押し上げ、同省が債務不履行に陥るリスクが高まるかもしれない」と警鐘を鳴らしている。
PR
PR
PR