- 2024/12/12 掲載
アングル:来年の米株式市場、トランプ氏の関税政策次第で波乱も
[ニューヨーク 11日 ロイター] - 米国株式市場は米大統領選でのトランプ氏の勝利を歓迎したが、新たな関税を導入するとのけん制を実行に移せば波乱が待ち受けているかもしれない。
トランプ氏は11月、中国やカナダ、メキシコなどの貿易相手国に新たな関税を課すと脅した。ただ、これは国境警備といった他の問題を交渉するための布石なのかどうかといった不透明な要素が多く残ったままだ。
新たな関税の導入時期と範囲も不透明で、関税が米国に与える影響は適用対象となる国々が独自の措置で報復するかどうかで左右される可能性がある。
しかし、エコノミストらが予測した最悪のケースは憂慮すべきものだ。
オックスフォード・エコノミクスが示した極端に長期的なシナリオによると、世界貿易は最大で10%減り、米経済成長率が現在の予想より1%程度下回る。他の予測によると、関税は企業の利益、特に小売業と工業、素材分野を直撃し、インフレを助長する。
JPモルガン・アセット・マネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、デビッド・ケリー氏は「基本的に関税は経済に悪影響を与える」とし、「インフレ圧力を高めると同時に、経済成長率を低下させるというスタグフレーションを引き起こす可能性がある」と指摘した。
新たな関税を導入するとのトランプ氏の脅しは外国為替市場に波風を立てたが、米国株式市場はほぼ受け流して今年に入ってから26%超上昇した。S&P500種株価指数は過去最高値を更新した。
バークレイズのストラテジストらは、カナダやメキシコ、中国に対する関税案とそれらの国による報復措置がS&P500種銘柄の利益を2.8%押し下げる可能性があると予想。素材と消費者裁量の分野はメキシコとカナダでの供給と生産が大きいため、減益率が2桁に達する可能性があると指摘した。
対象国による報復関税は利益の落ち込みをさらに悪化させるだろう。
BofAグローバル・リサーチは、中国からの輸入品への関税が2倍の40%へ引き上げられ、中国とメキシコ、カナダを除く国々からの輸入品への関税が8%程度へ引き上げられた場合、S&P500種銘柄の利益を1%押し下げると予想している。外国での売り上げに打撃を与える報復関税が実施された場合には、利益を5%引き下げることが想定されるとした。
また、ドイツ銀行のエコノミストらは、関税の引き上げはインフレの指標として広く使われている個人消費支出(PCE)物価指数のコア指標を押し上げる可能性があると言及。25年の上昇率が前年比2.5%程度となり、現在の2.3%から拡大する可能性があるとの見通しを示した。
トランプ陣営はコメントの要請にすぐに応じなかった。
<第1次政権を検証>
トランプ氏は関税を「世界で最も美しい言葉」と呼び、自身の計画が米製造業の基盤を立て直し、米国の雇用と所得を拡大し、10年間で数兆ドルの連邦政府収入を得られるようになると主張している。
投資家の一部は、第1次トランプ政権で導入された関税を検証し、次期政権での影響を洞察しようとしている。
RBCキャピタル・マーケッツによると、2018年の米中貿易戦争では素材と工業の両分野が市場でのパフォーマンスが最も悪かった。不透明な時期に人気の高いディフェンシブ銘柄が最も強いリターンを記録し、公益事業と不動産の両分野は10%超上昇したと指摘した。
RBCのストラテジストらは今月、素材分野の評価を「オーバーウエート」から「マーケットウエート」へ引き下げた。トランプ氏の大統領選での勝利が決まった後にS&P500種株価指数が4%上昇したのに対し、素材分野は3%下げた。
シティグループは、ハイテク分野は18年と19年に米国の関税引き上げや中国の報復措置が発表された日にパフォーマンスが低下する傾向があり、特にハードウエアと半導体の銘柄が弱かったと分析。一方、シティのストラテジストらは最近のリポートでハイテク分野は「人工知能(AI)の最前線にあり続け、関税が発表された場合には注文の前倒しによる恩恵を受ける可能性があることから、直ちにリスクが生じるとはそれほど懸念していない」と言及した。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの米国株式部門責任者であるデビッド・レフコウィッツ氏は、中国からの輸入品への関税引き上げは小売業、工業、ハイテクのハードウエア企業に特に影響が出る可能性があると言及。一例としてアップルやスターバックス、ナイキなどの米国の人気ブランドは報復措置に直面する可能性があるとした。
また、レフコウィッツ氏はカナダとメキシコで生産している自動車メーカーは関税引き上げの影響を受ける可能性があるとも指摘した。トランプ氏が関税の導入を訴えた後、米ゼネラル・モーターズ(GM)などの自動車株は売られた。
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