- 2024/12/06 掲載
焦点:韓国戒厳令の舞台裏、金融当局者が通貨防衛に奔走
[ソウル 6日 ロイター] - 韓国の尹錫悦大統領が3日夜に「非常戒厳」を宣言し、同国が数十年ぶりの危機に直面した数分後、崔相穆企画財政相は通貨防衛が最優先であることを認識した。
崔氏は午後11時ごろまでに、中央銀行、財政省、銀行・市場規制当局のトップによる非公式の緊急会議を招集した。
戒厳司令部の兵士が国会に突入していたころ、「F4」と呼ばれる韓国の4大金融当局は、過去の危機の際に使われてきた緊急対応策を発動し、アジア市場が開く前に通貨ウォンの急落を阻止しようと奔走した。
関係筋によると、崔氏が協議を主導し、韓国銀行(中央銀行)が通貨安定に向けた取り組みを担った。
直ちに最初の発表が行われ、財政省は必要に応じて市場に無制限の資金を注入すると表明した。これによりウォンは2009年の世界金融危機以来の安値から回復した。
政府高官は「このメッセージを迅速に発表したのは、李中銀総裁のアイデアだった」とロイターに明かした。李氏は非常戒厳発令のニュースは国内よりも外国人投資家にとって大きなショックになると予想し、先回りして行動することが非常に重要と強調したという。
今回の緊急対策は1998年のアジア金融危機からの教訓が基礎となった。中銀高官は「われわれはこれまで多くの危機を経験してきた。新型コロナのパンデミックを含め危機を通じて浮き沈みを経験し、一連の手段を準備してきた」と語った。
4大金融当局がこれほど積極的に市場に介入したのは、コロナ禍で輸出主導の経済が大きな打撃を受けた2020年以来だった。
韓国は低成長、労働争議、予算交渉の行き詰まり、主要貿易相手国である中国の問題などに悩まされており、当局はすでに急激な為替変動への警戒を強めていた。
ウォンは年初来、対ドルで9%下落。主要株価指数KOSPIは8%下落した。8月以降、海外資金が株式市場から流出しており、4カ月間の流出額は140億ドルを超えている。
ピクテ・アセット・マネジメントでアジアのスペシャル・シチュエーション・ヘッジファンドを運用するジョン・ウィザール氏は、「韓国の当局者は外国人を中心に多少のパニックが起きることを明らかに認識していた」と述べた。
「政府や中銀がこうした状況に直面した際には、無制限の流動性を提供するのが現在の通常の対応になっている。これはコロナ禍のときに使われた手法だった」と指摘した。
<財政相が司令塔>
崔氏はこれまで尹氏の忠実な支持者で、同氏が22年3月に大統領に就任して以来、政府の要職を歴任してきた。23年12月に財政相に就く前は、尹氏の経済担当首席秘書官を務めていた。
情報筋によれば、今回の混乱の中で崔氏は「司令塔」となり、翌日にかけてメッセージの発出や対応を指揮した。
財政省で通貨問題を担当した元高官は、市場に安心感を与えるメッセージから具体的な資金調達、救済策まで、市場のあらゆるシナリオに備えて取るべき一連の行動が有事の際の緊急対応計画にまとめられていると述べた。しかし別の関係筋によると、起こりうる危機のリストに戒厳令は含まれていなかったという。
尹氏は3日午後9ー10時の間に非常戒厳計画について協議する閣議を開いたが、政府筋によると閣僚の半数以上が反対もしくは懸念を表明した。
崔氏は午後11時までにF4の会議を招集した。関係者は「崔氏は大統領府での閣議を終えて駆け付けた。同氏はこの不合理な計画に猛反対していた」と振り返った。
F4からは発表が相次いだ。中銀は午前中に臨時の金融政策理事会を開くとし、金融監督院は市場を安定させるための措置を講じると発表した。
国会は午前1時までに非常戒厳の無効を宣言したが、F4は緊急対応策を続行。夜中に次官らによる会合が開かれ、午前7時に再び集まって市場の正常な機能を維持することを確認した。金融規制当局は10兆ウォン(70億6000万ドル)規模の株式市場安定化基金を発動する用意があると表明した。
計画はおおむね成功し、ウォンは2年ぶりの安値から上昇し株式市場は3日間で2.5%強の下落にとどまった
李中銀総裁は5日の記者会見で、「もし戒厳令が非常に長期間続いていたら、外国人の(韓国への)見方が本当に悪化していた可能性がある」と安堵の表情を浮かべた。
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