- 2024/11/14 掲載
アングル:ユーロ下落の要因と今後 ドルと等価はあるか
ユーロは9月には過去1年余りで最高の水準まで値上がりしていたが、欧州経済の見通しが悪化したため下落に転じ、足元では1ユーロ=1.06ドル近辺で推移している。
ユーロ/ドルは世界で最も活発に取引される通貨ペアだ。ユーロ下落の要因と今後の展望を探ってみた。
1.ドルと等価になり得るか
可能性はある。ユーロはドルとの等価よりわずか6%高い水準にある。ユーロが現在の水準より低かったのは2000年代序盤と22年の数カ月間だ。22年当時は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて欧州はエネルギー価格の高騰に見舞われ、米国の金利はユーロ圏よりも速いペースで上昇していた。
トレーダーにとって1ユーロ=1ドルは心理的に重要な水準だ。ユーロが1ドルを割り込めば、ユーロに対する市場心理が悪化して一段安となる恐れがある。
JPモルガンやドイツ銀行を含む大手銀行は、ユーロのドル等価への下落について、トランプ次期政権が関税をどの程度引き上げるか次第で起こり得ると分析している。トランプ氏が掲げる減税も、米国のインフレを誘発して米連邦準備理事会(FRB)の利下げ幅を縮小させ、ドルの魅力をユーロよりも高める可能性がある。
2.企業と家計への影響は
通貨が下落すれば通常、輸入コストは上昇する。輸入コストの上昇は食品、エネルギー、素材などの価格上昇をもたらし、インフレを悪化させる。
ユーロ圏ではインフレ率が2年前には2桁に上昇したが、その後は急速に鈍化したため、現時点では通貨安による物価への影響は大きな懸念材料とはなっていない。大半のエコノミストはインフレについて、今年末には若干不安定になるが、来年には欧州中央銀行(ECB)が目標とする2%に回帰すると予想している。
一方でユーロ安により、ユーロ圏からの輸出品は割安になる。これは欧州の自動車メーカー、工業会社、高級ブランド会社や、外国から収入を得ている個人・投資家にとっては朗報だ。
特にユーロ安はドイツにとっては明るい材料だ。長期にわたって欧州の輸出けん引役を担ってきたドイツの経済は、中国の景気低迷など多くの逆風に苦しんでいる。
3.ユーロは独歩安なのか
必ずしもそうではない。米国の多くの貿易相手国の通貨はここ6週間、関税を巡る不安から値下がりしている。
ユーロは4.75%下落した一方、メキシコペソは約5%安、韓国ウォンは5.4%安となった。1期目のトランプ政権下ではユーロは6%上昇した。2016年の米大統領選の結果判明後にユーロは約6%下落したが、その後に持ち直している。
円はドルに対して年初来で約9%下落しているが、ユーロの下落率はその半分に満たない。
4.ユーロの見通しはそれほど悪いか
誰もがユーロに対して長期的に弱気な見方をしているわけではない。多くの銀行はユーロとドルの等価について、実現の可能性はあるが可能性が高いわけではないとしている。
ECBがFRBより速いペースで利下げすれば、ユーロにとっては売り手掛かりとなるが、利下げによって経済成長見通しが改善することで、長期的にはユーロを下支えする可能性がある。
ユーロ圏の域内総生産(GDP)は第3・四半期に前期比0.4%増加して市場予想を上回り、ユーロを下支えする要因となった。ドイツの政権崩壊は、次期政権下での成長を促進する経済対策に道を開く可能性があり、これもユーロの支援材料となり得る。
エドモン・ドゥ・ロスチャイルドのベンジャマン・メルマン最高投資責任者(CIO)は「誰もが欧州に対して悲観的で、われわれは悲観視される理由を理解しているが、予想に反して明るい材料が出る可能性もある」と述べ、ユーロが現在の水準から大きく下落するとは考えていないと付け加えた。
5.ECBにとっての意味
ECBはユーロが前回、急速に下落した2022年よりも好ましい状況下にある。当時はインフレが急騰したためユーロは1ドルを割り込み、ECBへの利上げ圧力が強まっていた。
これに対し現在はインフレが鈍化基調にある。ユーロがドルと等価にまで下落しても、ECBがそれほど憂慮することはないと考えられる理由はほかにもある。
ECBは主要貿易相手国の通貨バスケットに対するユーロの動向に、より強い注意を払っている。貿易相手国との貿易額で加重平均したユーロの実効レートはこの1週間で1.25%下落したが、22年の水準を大きく上回っている。
エコノミストはまた、通貨安によるインフレへの波及は比較的小さいと考えているため、ユーロ安がECBの利下げを阻むことは当面なさそうだ。
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