- 2024/10/17 掲載
アングル:日本企業の中間決算、上方修正の期待 株高連動か不透明
[東京 17日 ロイター] - 2025年3月期決算企業の中間決算シーズンが近づく中、市場では、業績予想の上方修正の動きが広がるかどうか注目されている。第1四半期の発表時に続いて業績の上振れが示されれば、上値の重さが意識される相場全体にとっても刺激材料になり得る。もっとも、市場の目線は高いだけに、株価上昇に弾みがつくかは不透明との見方もある。
ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「外部環境は悪くない。グローバル輸出企業にとって多少の円高なら数量効果でカバーできるだろう。企業業績は基本的に上目線でよさそうだ」との見通しを示す。
期初に比べて米国での利下げペースに対する市場の思惑は後退してきたが、米経済の強さの裏返しだとして、今回の中間決算での上方修正の企業の比率は「少なくとも例年並みは期待できる」と井出氏は指摘する。
TOPIX500採用銘柄で3月決算企業(金融を除く)のうち、会社予想と市場予想のデータが過去10年中9年以上で利用可能な企業306社を対象に井出氏が集計したところ、中間決算時に上方修正した企業の比率は平均で34.9%となっている。
とりわけ今年4─6月期の上方修正企業の比率は14.4%と、過去10年の平均9.3%の約1.5倍と大きく上回った。過去には4─6月期に上方修正した企業の3分の2が、中間決算でさらに上方修正する傾向がみられるという。
<半導体関連株にリバウンド期待、中国リスクと背中合わせ>
セクター別で株価の上伸余地がありそうなのが、半導体関連株だ。株価は秋口の底入れがうかがわれ、足元では戻り歩調にある。中間決算で先行きの業績への期待が高まれば「リバウンドに弾みがつきそうだ」と、岩井コスモ証券の斎藤和嘉シニアアナリストはみている。日経平均への寄与度の高い銘柄群でもあり、株高基調が鮮明になれば指数の押し上げにつながる可能性がある。
東京エレクトロンなどの装置メーカーにとって、半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の設備投資計画が重要となる。17日の決算では来年度の具体的な計画は示さなかったが、今年度より高水準になるとの見通しを示した。AI向けの先端品の生産はフル稼働に迫っているとみられ「(先行きも)拡張投資にかなり積極的だろう」(斎藤氏)という。
半導体関連株の株価は春先のピーク時から3─4割下落した。株価収益率(PER)は20倍台に低下し、割安感も意識されている。「かなり悲観的なシナリオは織り込まれた。AI関連の増勢が確認されれば、戻り歩調は強まる」(斎藤氏)とみられている。
一方、国内の製造装置メーカーは、非先端品向けの需要が旺盛な中国向けの比率が高い。例えば東京エレクトロンの中国向け売上高は49.9%に高まっている。米国による輸出規制が強化されれば、売上高が大きく減少しかねないリスクと背中合わせといえる。米大統領選の行方への目配りも重要になる。
<消費関連は「二極化」>
賃上げとインフレの好循環への思惑を背景に、内需株は「極端な円安がなければ業績は底堅そうだ」と三木証券の北沢淳商品部投資情報グループ次長はみている。ただ、消費関連では生活防衛の意識も根強く「二極化の様相がうかがわれる」(北沢氏)という。
先立つ小売り企業の決算では、生活必需品や食品を手掛けるイオンなどのスーパーやコンビニでは節約志向がみられた一方、ユナイテッドアローズやパルグループホールディングスなど「消費者の支持を集める独自商品を手掛けたり、インバウンド需要を取り込める企業は好調」(北沢氏)となり、濃淡が生じた。
7─8月にはインバウンド客数の伸びが鈍化した。円高の影響だけでなく、南海トラフ地震臨時情報の発出や巨大台風が迷走したことなどの影響があったとみられる。一時に比べ足元では円高が一服しており、客足の戻りが確認されるか、経営陣による先行きの見通しも材料視され得る。
インフレ好循環が続き、インバウンドの伸びが継続するなら、回転ずしチェーンなどの外食産業や土産菓子を手掛ける寿スピリッツなども有望視され得るという。
<底入れ探る自動車>
輸出関連株の代表格となる自動車株は、為替見通しの円高方向の修正や生産の戻り具合が焦点になるとして「下方修正含み」と東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストはみている。
日産自動車はドル/円の想定レートを155円としており、円高方向に修正されると為替差益が目減りしかねないと想定されている。
トヨタ自動車を含め、在庫水準が高まったことで、生産の伸びが会社の期初の想定を下回った可能性があるとみられており「先行き在庫調整が進んで値引きの悪影響が縮小するかどうかを確認する必要がある」と東海東京の杉浦氏は話している。とりわけ北米で在庫が積み上がっている日産やマツダは値引きが目立っており、業績へのネガティブインパクトが大きくならないかが警戒される。
株主還元拡充への思惑は根強く、決算に併せて発表があれば物色材料になり得る。日産やマツダの配当利回りは5-6%程度と高く、株価の下値を支える可能性がある。一方、トヨタの決算は米大統領選と日程が重なることもあって、発表直後は織り込みにくさも意識されそうだ。
<銀行株は往来相場か>
日銀による利上げの思惑に振らされてきた銀行株について、岡三証券の田村晋一金融セクターアナリストは「決算自体は良好だろう。貸し出しが増え、利ザヤは改善傾向だし手数料は伸びている。持ち合い解消が加速し、売却益は急増する」との見方を示す。業績の上振れ分を増配や自社株買いに回す動きも想定され、決算を受けて個別物色が強まりそうだ。
一方、株主還元は例年実施しており、事前に織り込まれる可能性もある。「同じパターンと捉えられると株価反応は限られるおそれがある」(田村氏)という。
好材料に基づく物色があっても、その持続力は不透明ともみられる。年末年始にかけて日銀の追加利上げの思惑がくすぶるが、流通する国債が少ない中では金利が上昇すればすぐに買い尽くされて金利が低下するといった循環になる可能性があるといい、「長期金利が1%を超えていかなければ(銀行株は)売られないにしても上がりにくそうだ」(田村氏)という。
<高い市場の目線>
期初に比べ為替が円高方向に振れたことで、保守的な見方を示しがちな日本企業の一角は想定レートを引き下げる可能性も意識されている。アナリスト予想の前提レートからの下方乖離もうかがわれ、ポジティブサプライズの余地は限られるとの見方もある。
国内の主要証券会社による通期予想は経常利益ベースで7ー8%程度の増益見通しの一方、会社予想は1%超程度の増益にとどまっている。9月日銀短観で示された24年度のドル/円想定レート(全規模・全産業)の145.15円に対し、アナリスト予想では150円程度の前提となっている。
「アナリスト予想の方が目線は上方にある。企業の予想がこれを上回るにはハードルが高そうだ」と、しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンド・マネージャーはみている。「失望はないだろうが、指数の上昇に弾みがつくほどではないのではないか」と話している。
(平田紀之 編集:橋本浩)
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