- 2024/10/10 掲載
焦点:重み増す日銀展望リポート、政策の方向性明記 表現に柔軟性
[東京 10日 ロイター] - 日銀の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)の重みが増している。金融政策の正常化局面に入り、展望リポートに政策の先行きに対する日銀の考え方が集約されるようになったからだ。10月の展望リポートでは、米国経済をはじめとする海外経済や金融市場を巡る不確実性についての記述や、政策判断にあたっての「時間的な余裕」といった文言が表記されるかが焦点となる。
<変わる情報発信>
異次元緩和の下で日銀は、声明文と展望リポート双方にフォワードガイダンス(金融政策の先行き指針)を明記してきたが、4月の金融政策決定会合では展望リポートの「基本的見解」の末尾に先行きの政策運営に関するスタンスを明記し、声明文の記述をなくした。先行きの政策運営に関しては政策を維持した6月と9月の会合後の声明文にも表記はなく、政策変更した7月は声明文と展望リポート双方に記述した。
表現を厳格に維持していたフォワードガイダンスとは対照的に、展望リポートにおける政策運営の記述も7月分は4月の文章を修正したものとなった。
4月の展望リポートでは、経済・物価の見通しが実現し、基調的な物価上昇率が上昇していくとすれば「金融緩和度合いを調整していくことになる」とする一方で、「当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」と明記。異次元緩和の終了直後のタイミングで金融政策スタンスの急速な転換を否定し、市場の混乱を抑制する意図が込められた。
しかし、追加利上げを決めた7月の展望リポートでは、緩和的な金融環境継続の文言は削除。実質金利が極めて低い水準にあると言及した上で、経済・物価の見通しが実現していくとすれば「それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」とした。市場でくすぶり続ける低金利維持の観測をけん制する狙いがあったとみられる。
金融政策の現状維持を決めた9月の決定会合では、会合後の記者会見の冒頭、植田和男総裁が先行きの政策運営を口頭で説明した。植田総裁は7月の展望リポートの表現に沿った基本方針を述べたうえで、米国経済や金融市場の動向を「極めて高い緊張感」をもって注視していくと語った。
<「時間的余裕」の真意は>
9月会合後の記者会見以降、植田総裁は政策判断をする「時間的余裕」があると繰り返し述べてきた。これを受けて市場では早期利上げ観測が後退しているが、日銀では市場が織り込んだような「利上げの先延ばし」ではなく、円安修正でインフレ圧力の上振れに警戒する必要性が低下したことで利上げを急ぐ状況になく、利上げのタイミングを選ぶ余裕が出てきたといった意味だとの声が出ている。
足元で経済・物価は日銀の見立て通りに推移している。10月の展望リポートでは、成長率や物価の予測は7月会合時とおおむね変わらない見通しだ。日銀では、年内の追加利上げの可能性も排除しないとの声が上がっている。
一方、9月の雇用統計で失業率が低下するなど良好な結果となった米国経済については、米連邦準備理事会(FRB)の政策の転換期に当たり、時間をかけて丁寧に情勢を見極めるべきだとの見方が出ている。
9月米雇用統計を受けて、ドルは149円台まで上昇した。こうした状況の変化を踏まえ、10月展望リポートの先行き政策運営の記述に米国経済や金融市場の動向を注視する方針を盛り込むのか、また、政策判断に当たって「時間的余裕」があるとの文言が入るかは、市場とのコミュニケーションに配慮する日銀の政策を占う上で重要なポイントとなる。
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