- 2024/08/06 掲載
焦点:世界株安、米経済見通しよりキャリートレード巻き戻しの影響大
[ロンドン 5日 ロイター] - ここ数日の世界的な株安は米経済見通しの急激な変化よりも、借り入れを駆使して高いリターンを狙う「キャリートレード」の巻き戻しの影響が大きいとアナリストは見ている。
世界同時株安の引き金となったのは2日発表の7月米国雇用統計が予想を下回ったことだが、日経平均株価が5日に1987年の「ブラックマンデー」翌日を超える大幅な下げに見舞われたことは雇用統計だけで説明できないという。
影響が大きかったと見られるのがキャリートレードの急激な巻き戻し。キャリートレードは日本円やスイスフランなど低金利の通貨で調達した資金を高利回りの資産に投資する手法。円は対ドルで1カ月前に付けた38年ぶりの安値から11%も急騰し、投資家は不意を突かれた。
ブルーベイ・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング最高投資責任者は「当社の見立てによると、この(売りの)多くはポジションの手じまいによるものだ。端緒となったのは外為と円で、多数のマクロファンドが想定と異なる相場の流れに直面し、損切り注文が発動された」と説明。「われわれの見解では、(米経済の)ハードランディングを示すデータはない」と述べた。
アジアを拠点とする投資家の1人は、システマティックなアプローチを駆使するあるヘッジファンドが、アルゴリズムのシグナルに基づいて株式を売り始めたと述べた。先週に日銀が想定外の利上げを決めたことで金融引き締めがさらに続くとの観測が高まり、株式が売られ始めたという。
株安の裏付けとなるポジションの変化など具体的な数字を入手するのは難しいが、米ハイテク株はキャリートレードで調達した資金を使ってポジションが集中的に組まれていたため、今回の株安で下げが最も大きくなったと見られる。
日本の長年にわたる超低金利政策に支えられたキャリートレードは円の借り入れブームを引き起こした。国際決済銀行(BIS)のデータによると、2021年末以降、国境を越えた円の借り入れは7420億ドル増加した。
ステート・ストリート・グローバル・マーケッツの欧州担当マクロストラテジー責任者、ティム・グラフ氏は「これは円キャリーと日本株の巻き戻しだ。われわれのポジショニング指標によると、投資家は日本株に対してオーバーウエートで、円に対してアンダーウエートだったが、もはやそうではなくなった」と述べた。
最近の週次データによると、投機筋は対円の弱気ポジションを大幅に圧縮している。円のネットショートポジションは4月に7年ぶりの高水準の145億2600万ドルを記録したが、足元では6億1000万ドルと1月以来で最小となった。
ソシエテ・ジェネラルのチーフ通貨ストラテジストのキット・ジャクス氏は「世界最大のキャリートレードを巻き戻すのだから、ある程度影響が出るのは仕方がない」と述べた。
<ヘッジファンドに打撃>
投資家の間からはヘッジファンドのポジション調整によって相場の振れが大きくなったとの指摘が出ている。ヘッジファンドは通常、資金を借り入れて投資を行っているためだ。
銀行はヘッジファンドに投資資金を貸し出す。これによりヘッジファンドはより高いリターンを手に入れるが、損失が大きく膨らむ可能性もある。
ゴールドマン・サックスが2日に顧客に送ったメモによると、ヘッジファンドの借り入れ総額は6月と7月に減少したが、それでも過去5年間の最高水準に近い。
ゴールドマンの別のノートからは、5日のアジア市場の終値時点で、日本に焦点を当てたヘッジファンドは過去3営業日でリターンがマイナス7.6%になったことも分かる。
アナリストは、ポジション巻き戻しで短期的な痛みが生じる余地があるとしつつ、市場の動揺は限定的だと見ている。
市場が予想する米国の今年末までの利下げ幅は120ベーシスポイント(bp)強で、先週初めの約50bpから拡大。また9月の50bpの大幅な利下げが完全に織り込まれている。
しかし今後のデータが米経済のハードランディング回避の可能性を示すなら、こうした予想は行き過ぎかもしれない。
ブルーベイのダウディング氏は「今の時点で予想を根本的に見直すのは完全に間違っていると思う。それは単に相場の動きに合った筋立てを作るだけのことだ」と述べた。
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