- 2024/06/03 掲載
アングル:出遅れ鮮明の消費関連株、賃上げ・減税効果巡り割れる見方
[東京 3日 ロイター] - 小売や運輸といった消費関連株の上値が重い。インバウンド期待の反動や会社側の保守的な業績予想が嫌気され、賃上げに伴う消費拡大に向けた市場の期待がいったんしぼんでいる。
6月はボーナスシーズンの上、定額減税が始まる。夏場以降の消費拡大、インフレ好循環入りを期待する声が市場にはある。ただ、賃上げによる消費刺激効果に慎重な見方も根強く、市場の見方は交錯している。
4月以降の騰落率をみると、前営業日時点で小売は6.3%安。国内消費から需要が派生する運輸は、空運7.9%安、陸運8.0%安で、いずれもTOPIXの0.1%高に比べてパフォーマンスが見劣りする。インバウンド期待の一巡や、関連株の決算で示された会社側の業績予想が市場予想を下回るケースが多かったことが一因と見られている。
市場では「賃上げによる消費刺激の効果が、市場が期待したほどには会社予想に織り込まれていないようだ」(しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンド・マネージャー)との声が聞かれる。
企業の決算会見では、消費の先行きへの期待とともに、慎重な見方も示された。高島屋の経営陣は4月12日の決算説明会で、中小企業の価格転嫁が進み、中間層の所得水準も上昇すれば、消費の活発化につながるとの見方を示しながら「賃金と物価の好循環については、現時点で具体的に見通すことは難しい」と付言した。
厚生労働省による3月毎月勤労統計(速報)によると実質賃金は前年比2.5%減で、24カ月連続の前年割れだった。総務省の家計調査では、24年3月の消費支出は2人以上世帯の実質ベースで前年同月比1.2%減となり、13カ月連続で減少した。
今年の春闘での賃上げの効果は、5日に発表される4月分の毎勤統計から出始める見込みだが、市場では「実際の消費拡大の動きがみえてこなければ、関連株は買いにくい」(国内証券のストラテジスト)との慎重な見方は根強い。
株式市場では、前のめりし過ぎた思惑がいったん後退した形だが「賃上げはいずれ効いてくる。まずはボーナスシーズンを経て消費がどうなるかを見極めることになる」(藤原氏)との声が聞かれる。
<夏場以降が正念場>
今夏の一人当たりボーナス支給額は、前年比2.9%増の40万8770円で3年連続の増加が見込まれると三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部の丸山健太研究員は指摘する。好調な企業業績と堅調な雇用情勢が追い風となる。
支給総額は前年比4.4%増の16.7兆円と見込まれ「支給総額の増加率は物価上昇率を上回り、個人消費の回復を後押しすることが期待される」(丸山氏)という。
株式市場では「来年以降の賃上げ継続が不透明な中では貯蓄に回る側面もあるだろうが、気持ちに余裕ができれば消費に振り向ける余力も生じる」(国内運用会社のファンドマネージャー)と期待する声がある。
好調なインバウンド需要に加え、国内消費に改善の兆しがみえれば、小売や外食、レジャー、運輸などの関連銘柄に物色が向かい得ると、みずほ証券の倉持靖彦マーケットストラテジストは指摘する。
一方、第一生命経済研究所・経済調査部の永浜利広首席エコノミストは、賃金と物価の好循環による個人消費の活性化には「過大な期待は禁物」との見方を示す。雇用者報酬に対する消費の感応度が15年につけたピークの5割程度に低下しているためだ。実質賃金の改善があっても、社会保障や税など国民負担率の上昇で可処分所得が増えにくいことが背景とみられる。
2人以上世帯に占める無職世帯が30年前の10%台前半から34%超に増加したことも一因と永浜氏はみている。無職世帯の大部分は公的年金受給者で、賃金と物価の好循環が進むことは、マクロ経済スライドによって実質の受給額が減り「むしろ消費活動の抑制につながり得る」と話す。
経済界にも慎重な見方はある。イオンの吉田昭夫社長は4月10日の決算説明会で、年金生活者などを念頭に「(賃上げの)恩恵がどれだけの人々に届くかをよく考える必要がある」との見方を示した。物価上昇の影響は食品と非食品で異なるとして「単に価格を上げると顧客が離れてしまう可能性がある」と指摘した。
政府による物価高騰対策の補助金が終了し、7月から電気・ガス料金が値上がりする。防衛増税など、将来の負担増への懸念は「消費マインドを委縮させかねない」(第一生命経済研の永浜氏)ともみられている。
賃上げ効果が夏場以降、徐々に出てくると見通す三菱UFJRCの丸山氏は「実質賃金も年内にプラスに転じる可能性がある」と話す。先行きの国内消費は、インフレの好循環に入ることで支援されるか、それとも失望に終わるか、夏場にかけては「関連株にとって正念場になりそうだ」と、みずほ証券の倉持氏は話している。
(平田紀之 編集:橋本浩)
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