- 2024/06/03 掲載
焦点:日本がくみ取ったドル高への不満、為替介入後も投機と対峙
[東京 3日 ロイター] - 約1年半ぶりとなった日本政府の為替介入は、ドル高への不満を高める各国の声を日本がくみ取り、投機筋に隙を突かせない舞台回しを準備していたところに起きた。総額9兆円超の実弾介入もあり円安の勢いは小康を保っているが、日本は投機との対峙を続けており、過度な変動に即応する姿勢は崩していない。
<共同声明案を修文>
「打つ手がない。何か策を考えて欲しい」――。ジョージアの首都、トビリシで5月3日に行われた日中韓3カ国と東南アジア諸国連合(ASEAN)による財務相・中央銀行総裁会議に先立ち、日本には各国の政策当局者から通貨防衛に迫られる悲痛な声が寄せられていた。
歴史的な通貨安に見舞われたのは日本だけではなく、インドネシアやベトナムなどの東南アジア諸国も同様だった。会議に先立つ財務官級の代理会合で、焦点のひとつに浮上したのが「米金融政策のスピルオーバーへの不満を共同声明にどう盛り込むか」だったと、同行筋の1人は明かす。
物価抑制を狙う米国が利上げを続ける一方、各国との金利差という副産物も生み出し、スピルオーバー(意図せぬ漏出)への不満が高まっていた。
前出の同行筋によると、「米当局はインフレ抑制という要請がある。名指しするのは非生産的ではないか」と、修文を引き取ったのが神田真人財務官だった。当局者からのコメントは得られていない。
<名指し回避の妙手>
新興国の声をくみ取る形で、トビリシへの準備を進めていた前後の4月29日に、ドル/円は34年ぶりに160円台に乗せた。直後に155円付近まで急落。5月2日にはニューヨーク市場からアジア市場に移る早朝のタイミングで、157円台から再び急落した。
財務省が5月31日に発表した4月26日から5月29日までの介入実績は、円買い介入としては過去最大の9兆7885億円だった。いつ実施したかは8月に公表されるが、市場は、相場が急変した4月29、5月2両日に介入があったとみている。
介入観測から一夜明けた5月3日、日中韓ASEANの声明に盛り込まれたのが「外的要因からの負の波及による外国為替市場のボラティリティー(変動)の高まり」という景気下押しリスクで、文案は、全会一致で採択された。前回の声明では為替に触れていなかった。
米国を名指しすれば、かえって投機筋を刺激し、市場が大きく動揺する懸念もあった。スピルオーバーに対する不満が高まる中での妙手だったと、別の関係者は語る。
市場には「単独でアクションをとるより国際的な枠組みで投機をけん制したほうがドル高抑止につながりやすい」(日本総研の立石宗一郎研究員)との見方がある。
<介入なお選択肢か>
トビリシでの修文に続き23日からイタリア北部、ストレーザで開かれた主要7カ国(G7)財務相・中銀総裁会議では「為替の過度な変動は経済や金融の安定に悪影響を与えかねない」との懸念について、「再確認する」と改めて声明に明記された。
2017年5月以降続くG7合意だが、抜け落ちれば「誤ったメッセージとなり、投機に隙を突かれる」(前出の関係者)との懸念も背景にあった。
「円売り需要を吸収し、円安の勢いは減衰した。投機主体の円売りが永続的かは疑問で、時間が経てばより介入効果が出てきそうだ」と、大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジストは言う。
もっとも欧米中銀による利下げ観測の浮き沈みに影響され、神経質な展開が続くことも予想される。今後の通貨政策について、鈴木俊一財務相は31日の閣議後会見で「行き過ぎた動きには適切に対応するという、基本的考えは何ら変わらない」と述べた。
介入は「まれであるべき」とするイエレン米財務長官に呼応し、神田財務官は「まれであることが望ましい」と24日、イタリアで記者団に語った。「過度な変動が経済に悪影響を与える場合には適切な措置をとる必要があるし、それは許されている」とも述べ、追加介入も辞さない構えを崩していない。
(山口貴也 編集:久保信博)
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