- 2024/05/31 掲載
アングル:巨額介入で投機のドル買い抑制、円安は対ドル以外で活発に
[東京 31日 ロイター] -
政府・日銀の巨額円買い介入が明らかになったことで、投機のドル買い/円売りは今しばらく抑えられそうだ。一方で、主要国随一の低金利政策を堅持する円が売られやすい状況は変わっていない。円はすでにドル以外の複数の通貨に対して歴史的安値圏へ下落しており、売り圧力が他通貨へ染み出す形が鮮明になっている。
<9兆円超の円買い介入>
財務省が31日に公表した外国為替平衡操作の実施状況で、4月26日から5月29日までの間に、政府・日銀が合計9兆7885億円の為替介入を実施したことが明らかになった。
日々公表される日銀の当座預金残高から短資会社が推計した介入額は、4月29日が5兆2600億円─5兆5100億円程度、5月2日が3兆2600億円─3兆6600億円程度だった。今回は総額の公表のみで実施日などの詳細はまだ不明だが、円買い介入は市場推計をやや上回る規模で行われていたことになる。
ドル/円は現在、2度目の介入が入ったと見られる157円台を割り込む水準で、1度目の直前につけた34年ぶり高値の160円台にもやや距離はある。
市場では「152円や155円など、市場で防衛ラインと目されていた節目では入らず、参加者が一段の円安見通しに傾いたタイミングを叩かれた。ドル高値圏での円売りには慎重にならざるを得ない」(外銀の為替担当者)として、過去最大級の介入が一方的な円売りに一定の歯止めをかけている状態だ。
<円は5月最弱通貨に>
しかし、対ドル以外も含めた円相場全体に目を向けると、光景はやや異なる。円は介入とみられる動きから半月後の5月17日に対ニュージーランド(NZ)ドルで17年ぶり安値を更新、27日には対英ポンドでも16年ぶり安値を更新した。29日には対オーストラリアドルで11年ぶり安値に並ぶ水準へ売られた。
これらの通貨に共通するのは、利下げ予想の後ずれだ。根強いインフレ対策としてNZや豪では中銀が5月に利上げを検討したことが明らかになり、英国では賃金上昇率や消費者物価指数(CPI)が立て続けに予想を上回った。欧州中央銀行(ECB)の連続利下げ予想も後退しており、円は対ユーロでも史上最安値が目前に迫っている。
一方、対米ドルではNZドル、豪ドル、英ポンド、ユーロともに、年初来高値と安値のちょうど中間付近を推移するなど、対円相場とはかなり違った動きを見せている。米国も「利下げ期待の後退がドルの底堅さにつながっている」(国内証券アナリスト)ためで、連続利上げの道筋が見えない円は、再びひとり負けが鮮明となってきた。
主要通貨間の対ドル騰落率も、円は月初こそ介入効果で最強だったが、下旬には最弱へ転落した。
ロイターが日本のエコノミストを対象に実施した5月の調査によると、日銀が6月会合で利上げに動くとの予想は33人中ゼロ。4割は国債購入の縮小を予想しているものの、円安是正には「やらないよりはまし、という程度の小手先の対応」(みずほリサーチ&テクノロジーズ・エグゼクティブエコノミストの門間一夫氏)との評価が専らで、円の先安観は拭えないままだ。
<個人も対米ドル以外へ円売りシフト>
個人投資家の間でも、ドル/円以外の通貨ペアに人気が向かっている。金融先物取引業協会の集計によると、会員の店頭FX47社を経由した全取引のうち、ドル/円が占める割合は、最新の4月時点で81%まで低下した。ドル150円目前で介入警戒感が一気に高まり、相場がこう着した昨年10月以来の低水準だ。
これまでは、値動きが乏しくても大きな金利差が収益源となり、急変動の際も即時換金が可能な高い流動性を持つドル/円が圧倒的な人気を集めており、今年1月の取引シェアは過去最高の90%に達していた。
対ドル以外のペアが人気を集める傾向は、5月も大きく変わっていない。「介入警戒でドル/円の値動きが鈍っていることもあるが、ようやく介入が実現し、長らくドル/円の売りに賭けていた向きがポジションを手仕舞うことができ、余力が生じてきたことも一因だろう」(トレイダーズ証券市場部長の井口喜雄氏)という。
(基太村真司 編集:橋本浩)
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