- 2024/05/29 掲載
拙速な利上げ、絶対に避けなければならない=安達日銀審議委員
Takahiko Wada
[熊本市 29日 ロイター] - 日銀の安達誠司審議委員は29日、熊本県金融経済懇談会であいさつし、持続的・安定的な物価上昇を「まだ確信を持って実現できると言える状況ではない」として、経済の回復機運に水を差すような拙速な利上げは「絶対に避けなければならない」と話した。ただ、過度な円安の状況が長期化して物価の動きに影響が生じ、物価目標の実現に影響を与えると予想される場合には金融政策による対応も選択肢の1つになると述べた。
国債買い入れについては、現在は「3月に見直した国債買い入れの枠組みのもとでの金融市場の状況を確認しているところ」と指摘。将来、急激に買い入れを減額すると長期金利などに「不連続な変動」をもたらし、金融政策の不連続な引き締め局面への移行と解釈される恐れがあるとして、国債買い入れは「債券市場の需給や機能度、流動性の状況を総合的に勘案しつつ、段階的に減額していくことが望ましい」と話した。
<為替対応での頻繁な政策変更に慎重>
年初来の円安について、安達委員は「現在のように変動幅が非常に大きな為替レートを安定させるために金融政策を頻繁に変更すると、金利の変動幅も大きくなる」と指摘。家計の住宅投資や企業の設備投資などの資金調達に支障を来すとした。その上で「短期的な為替変動への対応を金融政策で行うと物価の安定に影響が出てしまう」と述べた。
ただ、円安が加速もしくは長期化することで「想定しているよりも早いタイミングで消費者物価の上昇率が反転する可能性がある」と指摘。その時点で、先行き持続的・安定的な物価上昇が2%を上回る可能性がより強まっている場合には「利上げを行うことで金融緩和度合いを調整するペースを早める必要性があるかもしれない」と話した。
為替変動によって予想インフレ率が大きく変動することになれば「金融政策による対応も考慮する可能性が出てくる」とも述べた。
安達委員は、あまりにも下振れリスクに配慮しすぎると、物価上昇のペースが加速して「結果としてより急激な金融引き締めの実施を余儀なくされ、経済に悪影響を及ぼしかねない点にも注意が必要だ」と説明。コロナ禍以降の金融政策のあり方として、下振れリスクだけではなく上振れリスクにも配慮する必要があるとし「基調的な物価上昇率が2%に向けて高まるという状況が持続している限りにおいて、経済・物価・金融情勢に応じて、金融緩和度合いを段階的に調整することが大切ではないか」と語った。
安達委員は3月の金融政策決定会合で、マイナス金利解除を含む大規模金融緩和の枠組み見直しに賛成票を投じた。政策変更を見直す場合の1つのメルクマールとして、サービス価格の安定的な上昇の観点から春季労使交渉(春闘)の第1回集計の結果が「前年比プラス5%以上」という条件を事前に考えていたと明らかにした。実際の第1回集計はプラス5.28%となり、「驚くべき数字」だったと述べた。
安達委員は昨年11月の記者会見で、24年度の賃上げのすう勢が把握できるのは新年度に入ってからと述べ、3月までの政策見直しに慎重姿勢を示していた。
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