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クラウドERPの導入が国内で始まり5年以上が経過した。この間、機能面の進化が急速に進んだことで、システム化構想からRFP、そして導入後の体制づくりまで新たな取り組みが求められるようになっている。では、どの部分を、どう見直していくべきなのか。アイ・ティ・アール(ITR)でプリンシパル・アナリストを務める浅利浩一氏が、クラウドERPによる次世代企業システムの整備に向けたアプローチとともに、押さえておくべきポイントを解説する。
短サイクルの機能強化で評価を高めるクラウド型ERP
クラウド型ERPの普及が国内で始まって、すでに5年以上が経とうとしている。この間、新型コロナやDXなどを背景に、基幹系システムのクラウド化は、多くの企業で重要なIT施策に位置づけられてきた。
ITRの『IT投資動向調査2023』(速報値)によると、「基幹系システムのクラウド化の実践」は主要なIT動向の中でも特に重要と位置づけられ、2022年度の実施率で26%、今後の実施率予想でも67%と、最重要とされた「全社的なデジタルビジネス戦略の策定」に次ぐ水準にある。
ERP市場を金額ベースで捉えたITRの『ITR Market View:ERP市場2022』でも、SaaS型のシェアは2021年度(予想)で42.2%と、パッケージ(IaaS)の29.6%とパッケージ(オンプレミス)の28.3%を大きく上回る。
クラウド型が支持される理由の1つが、言うまでもなくリモートワークとの相性の高さだ。
「加えてERPで言えば、四半期に1度という極めて短サイクルで新機能がリリースされる点があります。機械学習やAIなどの機能も包含されつつあり、データ活用機運の高まりもニーズを後押ししています」(浅利氏)
パッケージの機能強化のサイクルは「基本的に年に1度」(浅利氏)。経営の武器としてどちらに分があるのかは明白だ。
コア層への影響を排して拡張性も大幅向上
もっとも、クラウド型にも弱点はある。機能強化サイクルが短いということは、逆に言えば思わぬ不具合発生のリスクもそれだけ高いということでもある。また、その課金形態は長い目で見ればコストが積みあがることでオンプレミスより高くつく。
「クラウド型のメリットを引き出すうえで、従来からのERP利用における価値観の見直しを迫る部分が残されているのもまた事実です」(浅利氏)
クラウド型ERPはシステムを共用する「マルチテナント」と、占有して利用する「シングルテナント」に大別され、このうちユーザーにとって利便性が高いのが、カスタマイズなどで特有の要件を織り込みやすい後者だ。今ではシングルテナントに特化してサービスを提供するベンダーも存在する。
「加えて、コンテナ環境上で稼働するERPを提供する動きも出ています。インフラを問わないERPの実装法として、今後数年で急速に利用が広がると考えられます」(浅利氏)
機能の拡張性(Extensibility)も現在進行形で高まっているという。ERPの機能はカスタマイズの実施主体によりシステム基盤から、ベンダー標準のアプリケーション層である「コア層」「パッチ層」「ベンダーソリューション層」、さらに「パートナー向け拡張層」、「企業向け拡張層」というレイヤーで捉えられるが、ベンダー各社が総じてコア層を他のレイヤーと明確に分離し、影響を排除するよう動いていることが背景にある(図1)。
「コア層の分離というトレンドにより、カスタマイズやアップグレードに伴う不具合の問題が抜本的に解消されつつあり、運用リスクもそれだけ低減しています」(浅利氏)
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