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近年、事業活動から生まれるデータを分析・活用し、ビジネスチャンスを広げようとする取り組みが広がってきています。そうした中、注目を集めているのが、誰でも簡単にデータの収集、分析、可視化ができるツール「セルフサービスBI」です。本記事ではMM総研 執行役員研究部長の渡辺克己氏監修のもと、そもそもセルフサービスBIとは何か基本的なところから主要機能、導入メリット、セルフサービスBIを提供する主要プレイヤーなどについて解説します。
セルフサービスBIとは何か?
「セルフサービスBI」とは、「ビジネス・インテリジェンス(BI:Business Intelligence)」と呼ばれるデータの集計・分析・可視化をしてくれるツールを、専門的な知識を持たない人でも簡単に使えるような操作性で提供する製品群を指します。
そもそもBIとは、企業に蓄積されているデータを分析・可視化してくれるソフトウェアを指します。BIを使って企業が蓄積した膨大なデータを見やすく集計・分析・可視化できれば、その結果を経営の戦略策定にも役立ちます。
従来、BIはマーケターやエンジニアなど、プログラミングや情報分析に精通した専門人材が利用し、その分析結果を経営部門や業務部門に提供するといった形が一般的でした。つまり、経営部門や業務部門が意思決定に活用するデータは、専門人材に依頼して作成してもらうケースがほとんどでした。
しかしこの場合、BIを活用できる専門人材と、BIによる分析結果を受け取る部門の間で、データの受け渡しなどのやり取りに時間がかかってしまうほか、分析結果をまとめたデータが業務部門が知りたい情報になっていないことなどが課題となっていました。
こうした課題を解消するために生まれたのが、専門人材でなくても使えるような操作性でBIと同等の機能を提供するセルフサービスBIです。BIを必要とする人員が自らセルフサービスBIを使って分析を行い、その場でBIを利用できるようになったのです。これにより意思決定が迅速になるだけではなく、BIを利用するためのコストが下がり、BIがさまざまな業界・部署・人員で広く利用されるようになります。
セルフサービスBIの基本機能
セルフサービスBIの機能は、「データインプット(基幹システム、外部データ、オープンデータなど)」、「集計・分析(OLAP分析など)」、「可視化(グラフ化・ダッシュボード)」、「インサイト(自動分析・説明文)」から構成されていると渡辺氏は説明しています。主な機能は次の通りです。
(1) | 既存システムのデータと連携できる 企業の営業や管理の部門ではERP、SFA、CRMなど、企業内の情報を統合・分析・活用するためのさまざまなシステムが使われています。セルフサービスBIはこれらのシステムと連携し、膨大なデータをスピーディに集めることができます。 |
(2) | 分析・集計・可視化ができる セルフサービスBIのメインとなる機能です。社内のあらゆる場所から収集したデータを高速に集計、分析できる点が特徴となっています。 |
(3) | 結果をビジュアルに可視化できる データの分析結果を、さまざまな種類のグラフなどで表示するダッシュボード機能です。分析結果が分かりやすくビジュアル化されるので、データから導き出されるインサイトを理解する助けとなります。 |
セルフサービスBIと類似製品の違い
「専門的な知識がなくともデータを簡単に入手・分析できるツール」というのはセルフサービスBIに限ったものではありません。しかし、BIというのは顧客情報や経営資産に比べると、かなり幅広い情報を含むため、BIツールでは複数のデータを含めた統合的・横断的な分析やほかのツールとの情報連携が強化されています。
1種類のデータ、1つのデータベースから得られる情報を分析するのであれば、そのデータベースに特化した分析ツールでもBIツールと同じことができるでしょう。しかし、より有益な情報を得るためには複数のデータベースや外部のツールから得られる情報が必要になります。こうした点において、BIツールは優れた機能を有しており、ほかの分析ツールにはできない分析ができるようになります。そして、複数のデータやツールを組み合わせた分析という本来であれば複雑な知識やスキルを必要とする操作を簡便に行えるようにしたという点で、セルフサービスBIには大きな強みがあると言えるでしょう。
簡単に使える、という点を除くと、具体的にセルフサービスBIとBIにはどのような機能の違いがあるのでしょうか。セルフサービスBIとBIツールの定義は、製品を提供する企業によって違うところもあり、明確な線引きは難しくなっていますが、渡辺氏によると、両者の1番大きな違いは「処理性能のパワー」だとしています。
「BIツールの方がセルフサービスBIに比べて、幅広いデータを取り込めたり、リアルタイムで分析結果を表示させることができたりなど、処理が圧倒的に高速となっています。たとえば、データマイニングやシミュレーション、将来予測といった領域では、BIツールの方が優れているでしょう。また、分析にあたり細かなカスタマイズもできるBIツールは、分析の設計自由度が高くなっています。しかし、BIツールは高性能であるがゆえに、使いこなすのも難しい製品となっています」(渡辺氏)
セルフサービスBIが必要とされる理由
渡辺氏はセルフサービスBIが求められる理由として、「ビジネス環境の変化」と「コスト」を挙げました。
「近年、事業変化のスピードが非常に速くなったため、データを活用して効率化しようというニーズが増えていますが、マネジメント層だけではとても追いつきません。BIツールは情報システム部門のSEが設計する必要があるうえに、新規システムを導入するのと同じくらいのコストがかかるため、誰でもすぐに使えるツールが求められていました。セルフサービスBIであれば、月額料金が数万円~数十万円ほどまで抑えられますし、SEに頼む必要がなく、新規導入ほどコストがかかりません。導入の負担がBIツールより軽いので、処理パワーが違ったとしても、セルフサービスBIを導入するメリットは大きいと言えるでしょう」(渡辺氏)
セルフサービスBI導入のメリット
MM総研が2020年に実施した「セルフサービスBI利用動向調査」によると、導入部門は多岐にわたっており、部門によってさまざまな使われ方があることが分かりました。特に、セルフサービスBIの導入目的として最も多かった回答は「働き方改革の推進」でした。
「最近はさまざまなデータと従業員データを紐づけて、どこの地域や部門に配置すれば最適かが分かる『人材の最適化』にセルフサービスBIがよく使われています。経営管理だけでなく、人事管理でもデータ分析のニーズが増えていることが分かります」(渡辺氏)
部門ごとに、導入メリットの違いを渡辺氏は次のように説明しました。
(1) | 管理部門 主に経営企画やマネジメント層が、事業決断の指標となるデータをレポートする時に使われています。ERPや財務データを組み合わせた分析が多くなっています。 |
(2) | 営業部門 CRMデータなどと連携し、有望な見込み客リストを作ったり、最適なアプローチ戦略を立てたりと、営業の効率化を支援するために活用されています。 |
(3) | 開発・製造部門 新開発した製品が、ターゲットとする顧客のニーズに合致しているかなどを検証するためのマーケティングなどに使用されています。また、工場など製造部門では、稼働状況のデータを可視化することで、生産効率を上げることを目的に使われています。 |
同調査によれば、BIの分析に使われるデータの種類は、「販売データ(44%)」、「受発注データ(41%)」、「在庫データ(32%)」、「財務・会計データ(30%)」、「IoTデータ(21%)」の順に多くなりました。渡辺氏は社内の基幹業務データに加えて、外部・第三者データと金融情報を組み合わせて活用しているケースが多いことから、「金融業界で先行して導入が進んでいるのではないか」と推測しています。
セルフサービスBI市場
セルフサービスBIの市場規模について、渡辺氏は「セルフサービスBIの市場は、従来のBIツールの市場に含まれていることもあり、はっきりとした境界線がなく、全体像を正確に把握することは困難であるほか、グローバルプレイヤーも多いため市場規模の算出が難しい」としながらも、MM総研の推定では2022年で300億円程度の市場があるとされており、市場規模は年ベースで10%を優に超えています。
また、
IndustryArcの調査によると世界規模では2027年に90億ドル規模の市場になると推計されており、こちらも15%程度の成長率があると見積もられています。
世界的な市場規模と比較すると、日本のセルフサービスBI市場は、成長の余地が非常に大きいと言えるでしょう。セルフサービスBIを利用するために社内にそれなりのデータベースとそれを管理できるシステムが必要であることから、大企業への導入が多く、安価で利用できるものの中小企業への導入はあまり進んでいません。DXの広がりによって中小企業のデータ活用体制が整備されれば、中小企業への導入も進むかもしれません。
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