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「ポスト・インターネット」と評価され、注目されてきたブロックチェーン。しかし、注目度に対して、多くの人々からは「成功例はあるのか」「身近にその魅力を感じられるのか」という疑問が投げかけられてきた。「P2E(Play to Earn)」はこうした疑問に答えるコンセプトかもしれない。本稿ではP2Eの現状について、市場規模や課題などを含めて解説する。
解説:Ginco代表取締役 森川 夢佑斗 取材協力:double jump.tokyo 上野 広伸
解説:Ginco代表取締役 森川 夢佑斗 取材協力:double jump.tokyo 上野 広伸
「P2E(Play to Earn)」とは何か?
「P2E(Play to Earn)」は、「ゲームなどのサービスを利用した結果として暗号資産や
NFT といったデジタル資産を獲得でき、それらを売買することで収益を得ることもできる」という一連のサービス体験を総称したコンセプトである。
このコンセプトは2021年、ブロックチェーンゲーム「Axie Infinity」をきっかけに急速に知名度を高めた。さらにその後、P2Eの発想をゲームからヘルスケアの領域に拡張した「STEPN」が登場したことで、現在は「X2Earn」というコンセプトとして様々な業界やサービスカテゴリで応用されつつある。
P2Eはなぜ注目されるのか?
P2Eが注目される理由は「ゲームを通じて得られる収益が比較的高い」ことにある。後述するブロックチェーンゲーム「Axie Infinity」では、東南アジアなどで一般人の平均収入を上回ったことなどが「P2E」というキーワードが注目されるきっかけとなった。
「Axie Infinity」はベトナムの開発企業スカイメイビス(SkyMavis)によって2018年にリリースされたブロックチェーンゲームだ。ポケモンやたまごっちと同様にモンスターを購入し、育成や繁殖、対戦できる。
このゲームの特徴は、Axie(アクシー)と呼ばれるモンスターがNFTであること、そしてこのNFTを利用してゲームをプレイすることで仮想通貨を入手できる点にあった。
一般的なゲームにおいても、ゲームプレイヤーは対戦やクエストを通じてゲーム内通貨を手にすることができるが、これらはあくまでゲーム内だけで流通するデータにすぎず、ゲーム外で取引されることはない。
一方、Axie Infinityではブロックチェーン上の暗号資産をゲーム内通貨として直接入手することができる。そのため、ゲームをプレイして換金性のある資産を入手できるのだ。
また、所有するAxieを2体交配させることで、新しいNFTを産み出すこともできる。新たに誕生したNFTはゲーム内外のマーケットプレイスで販売し、ここでも暗号資産を獲得することが可能だ。
このようにゲームプレイを通じて暗号資産やNFTを入手できるAxie Infinityは瞬く間に世界的ブームとなり、DAU(Daily Active User)は一時200万人を超え、総売り上げは40億ドルを突破している。
P2Eと過去の類似例との違い
「P2E」の特徴はどこにあるのか? たとえばゲームを通じて収益を得る行為にはRMT(リアルマネートレード)などがある。これとの違いはどこにあるのだろうか。
RMTとの違いは、得られる収益がゲームプレイの目的ではなく副産物にすぎないという点だ。従来のRMTでは、プレイをして獲得したアイテムやゲーム内通貨をアカウントごと第三者に売り渡す必要がある。換金に至るのはゲームプレイを終えた最終段階であることも多く、アカウントを売ってしまった後はまたイチからゲームをスタートしなければならない。いわば焼き畑農業である。
一方で、Axie Infinityでは、ゲームプレイ中の拡大再生産から生じた余剰分を必要に応じて換金する。以後のゲームプレイで必要なNFTや暗号資産は手元に置いたまま、プレイの副産物だけをゲーム外に持ち出し換金できるほか、余剰を換金することなくゲーム内に再投資してさらに収益性を高めることも可能だ。
このように、収益を得るためにゲームをするのではなく、ゲームプレイを主目的としたうえでその余剰分を収益にも変換できる、という点がP2Eの特徴的なサービス体験となっている。
こうして、ゲームを遊ぶだけで暗号資産とNFTを手に入れられるP2Eサービスは、暗号資産やNFTに興味を持つ人にとって参加ハードルの低いジャンルとして受け入れられていった。
P2Eの発想をゲームから一般サービスに拡張した「STEPN」
Axie Infinityの躍進を受け、P2Eというコンセプトをゲーム以外のサービスに拡張したことでいま注目を集めているのが「STEPN」だ。
STEPNは運動をすることで暗号資産を得ることができるサービスで、ヘルスケアアプリにゲーミフィケーションの要素を組み合わせている。
ゲーミフィケーションとは、ゲームプレイ自体を本来の目的としないサービスに、アイテムの獲得やレベルアップ、クエスト、利用者同士の競争といった要素を組み合わせ、マーケティングやエンゲージメントの向上を行うアプローチだ。
STEPNのユーザーはスニーカーを模したNFTを購入し、スニーカーNFTがアプリ内に存在する状態でランニングやウォーキングをすることで、その歩数に応じた暗号資産を手にすることができる。
STEPNのスニーカーにはレベルやパラメーターが設定されており、ランニングを繰り返すことで、暗号資産の稼ぎやすさなどの性能を高めることが可能だ。
さらに、性能を高めたスニーカーを転売することも可能となっており、この際の差額で収益を得ることもできる。
STEPNが画期的だったのは、ゲーム的な要素を組み合わせれば「P2E」のコンセプトをさまざまなサービスに拡張可能であることを示した点だ。
「ただNFTを買って歩けばいい」という点で、STEPNの分かりやすさ、参加ハードルの低さはAxie Infinityのようなゲームを大きく上回っている。
現在、世の中のサービスの多くはユーザーの離脱率を下げ利用を継続してもらうためにゲーミフィケーション的な仕組みを採り入れている。ここにNFTや暗号資産を組み合わせることで、「P2E」を拡張した新しいサービス体験を実現している。
【次ページ】P2Eを含めたゲーミフィケーションの市場規模
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