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これまで企業においてクラウドは“技術的なパーツ”に過ぎなかったが、いまやビジネスソリューションと位置付けられるようになってきた。それと同時にクラウド自体も「分散クラウド」「ソブリンクラウド」「インダストリークラウド」「サステナビリティ」などへの進化を遂げている。さらに、ベンダーとシステム・インテグレーター(SIer)のあり方は今後どうあるべきなのか。ガートナーのリサーチ&アドバイザリ部門バイスプレジデント、アナリストの桂島航氏がクラウドの市場予測と最新トレンドとともに解説した。
SaaSの成長鈍化、IaaS/PaaSは高成長を継続
はじめに、桂島氏はガートナーが行った調査をもとに、2021年におけるクラウド市場の動向を説明した。
「日本市場において、SaaS製品のシェアは大きいものの、成長率は20%未満と成長が鈍化しています。一方、IaaS、PaaS製品は、対前年比30~40%と高い成長率でした。また、両製品は2025年にかけても20~40%の成長率が見込まれています」
国内外のCIOへ行った「2022年に投資していきたいテクノロジー」の聞き取り調査でも、オンプレミスは削減していく一方、「クラウドへ投資していきたい」という回答が上位を占めている。
つまり、IaaS、PaaS製品を中心にクラウド市場が拡大していく傾向は、「今後もしばらく続く」というのがガートナーの見立てだ。
2020年のプロバイダー別CIPS(Cloud Infrastructure and Platform Services)市場シェアを見ると、AWS(46%)、マイクロソフト(24%)、アリババクラウド(8%)、グーグル(8%)の4社で全体の86%を占めた。引き続きクラウドトレンドの中心は、こうしたハイパースケーラー(超大型データセンターを運営するクラウド企業のこと)の動き次第となるだろう。
クラウド関連のITサービスで現在、需要が大きいのは、オンプレミスからクラウドへ移行する際に必要なマイグレーション需要だ(2021年、1兆50億ドル)。これは単なる移行作業だけでなく、アプリケーションの改修費用も含んでいる。
その次に大きかったのがAWSやAzureの運用を助けるマネージドサービス(2021年、550億ドル)だ。桂島氏は「ワンショットで終わるマイグレーションより、常に改修が必要となるマネージドサービスのほうが今後、重要になる」と指摘する。
というのも、複数のクラウドを使い分ける「マルチクラウド」が、世界的な主流になりつつあるからだ。実際に、企業のうち76%がマルチクラウドを導入していて、メインにAWSを利用しながら、サブでAzureもしくはGoogleを使うという形が増えてきている。
SIerはこうしたオンプレミスからクラウド移行に伴うビジネスチャンスを、どう捉えるかが重要だ。
いま押さえるべき「クラウド進化」の4つのトレンド
だが、桂島氏は「クラウドはもう一つ上のステージへ進化してきています。従来の延長線で考えるのは危険です」と注意を促す。
桂島氏が注意する、クラウドの進化とは「分散クラウド」「ソブリンクラウド」「インダストリークラウド」「サステナビリティ」の4つである。
まず分散クラウドとは、これまでデータセンターにあるべきと考えられていたデータやアプリケーションが、オンプレミスにもエッジにも広がり、どこであってもサービスを使えるようにする新しいシステムのあり方だ。
分散クラウドが進むことによって、エッジにおけるセキュリティや低遅延問題への対応が求められてきている。そこでエッジコンピューティングの設計方法が、「2023年末までに、20%くらい新しく変わるだろう」というのがガートナーの見立てだ。
2つ目の「ソブリンクラウド」とは、「主権を侵害しないクラウド」のことである。これは欧州(EU)を中心に、外国資本のハイパースケーラーに依存し過ぎると、国の主権や利益が損なわれかねないという議論から生まれた考え方だ。
データ主権をきちんと担保できるクラウドサービスを使っていかなければならないという声は、今後ますます高まっていくだろう。その解決策としてパブリッククラウドをベースに国内SIerと組んで作るのか、または完全に国内のプロバイダーとSIerだけで作っていくのかという議論も出てくると予想される。
3つ目に注視したいのは「インダストリークラウド」の動きである。インダストリークラウドとは、業種ごとに必要なソリューションをパッケージ化して提供するサービスのこと。桂島氏は「まだ始まったばかりのサービスではありますが、バーティカル化に最も熱心なマイクロソフトに注意しながら、この動きにどう対処すべきか検討する必要がある」と注意を促した。
最後に「サステナビリティ」も、SIerが押さえておきたいトレンドだ。カーボン規制が厳しい欧州やオーストラリアではデータセンターを選択する際、そのCO2排出量が評価の要件となる可能性が高い。
データセンターはオンプレよりも、クラウドで運営するほうがCO2削減につながるから、「クラウドへ移行してサステナビリティの取り組みを加速させましょう」というスタンスはSIerとして有効な手段の一つとなる。またクラウド移行した後も、CO2削減量のモニタリング、分析、予測といったソリューションの追加や提案が考えられるだろう。
【次ページ】生き残りの道は「アセット化」「分散クラウド」など4つ
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