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生産性と賃金上昇の鍵を握る企業のIT化が思うように進んでいない。先行すべき大企業に勤務するビジネスパーソンの約半分がIT化の推進に消極的だという。ITに対する認識にも問題があるが、最も大きいのは日本の組織文化であり、結局はトップが変わらなければ物事は進まない。
日本企業のIT投資はまったく伸びていない
日本企業がIT化に消極的であることは以前からよく知られている。日本全体のIT投資水準(ソフトウェアとハードウェアの総額)は、90年代以降、横ばいが続いており、企業はほとんど投資を増やしていない。一方、米国やフランス、スウェーデンなど諸外国は急ピッチで投資を拡大しており、1995年との比較では約3.5倍になっている。投資額がまったく増えず、諸外国の3分の1以下というのは、壊滅的な状況と言って良い。
企業のIT化と生産性には密接な関係があり、経済学の理論上、賃金というのは生産性が向上しないと上がらない。つまり、IT化を積極的に進めなければ、賃金上昇は見込めないという話になる。日本の労働生産性は米国やフランス、スウェーデンと比較すると3分の2以下となっており、IT化の差は賃金の差となって顕在化している。
日本では低い賃金が社会問題化しており、岸田政権も賃上げ税制を掲げている。多くの国民が賃金上昇を強く望んでいるにもかかわらず、賃金を上げる最短距離の1つであるIT化は手つかずの状態だ。
では、日本企業はなぜここまでIT化に頑なまでの拒否反応を示すのだろうか。
以前から指摘されているのは、日本人ビジネスパーソンの意識の問題だが、それを裏付ける調査結果が出ている。人材の評価や育成を手がけるインスティテューション・フォー・ア・グローバル・ソサエティが従業員1000人以上の企業を対象に実施した調査によると、勤務先でデジタルビジネスの推進活動に関わることについて、44%の社員が「面倒くさそう」「やりたくない」「関心がない」など、ネガティブもしくは無関心な回答を行った。
またデジタルビジネスの推進活動に関わりたいかという質問に対して、「絶対に関わりなくない」「できれば関わりたくない」と回答した40代の社員は38%となっており、ほかの年齢層よりも多い(20代は20%、30代は28%、50代は32%、60歳以上は32%)。社員全体の半数近くがIT化消極的で、特に40代社員はこのテーマに関わりたくないと考えている。
年功序列での昇進が一般的な日本企業の場合、40代社員と言えば、典型的な中間管理職ということになる。ビジネスの中核を担う中間管理職がIT化に消極的ということでは、組織全体のIT化が進むわけがない。
ボトムアップ型組織など本来はあり得ない
では、日本企業の中間管理職はなぜここまでIT化に消極的なのだろうか。実はこの話はIT化にとどまらず、企業のオペレーションという点でも以前から指摘されている問題と言って良い。スイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)が行っている世界競争力ランキングにおいて、日本は毎年のように順位を落としてきたが、内容をさらに細かく分析すると、組織が抱える課題が浮かび上がる。
組織面での調査項目では、シニアマネージャーの国際経験、組織での活用レベルといった項目で日本は軒並み60位台と低迷している。中間管理職や上級中間管理職がある種の岩盤となり、組織を硬直化させていることが分かる。
日本の組織はボトムアップで、諸外国はトップダウンであり、どちらにも一長一短があるという話をよく耳にする。だが、企業のような近代的・合理的な組織において、厳密な意味でボトムアップということはあり得ない。企業活動には明確な結果責任が伴うものであり、その責任を負えるのはトップだけである。もし本当にボトムアップで企業戦略を決定しているのなら、それは無責任とほぼ同義になる。
では、なぜ日本企業はボトムアップ型であるとされ、それがうまく機能していると喧伝されたのだろうか。その理由は、昭和時代のビジネス環境に起因する。
【次ページ】IT化の鍵を握る「トップの交代」と「管理職の再教育」とは
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