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  • 2021/08/24 掲載

【クラウド・パッケージ別】IT運用保守コスト削減術、ガートナー海老名氏が解説

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DXへの投資のための原資捻出で課題となっているのがITシステムの運用保守コストの高止まりだ。IT活用に向けたシステム増、さらにクラウド活用の本格化を背景に、その額は年々増加の一途をたどっている。この課題への対応を抜きに、さらなるデジタル活用の推進は難しい。では、そのためにどう取り組むべきか。ガートナー ジャパン バイス プレジデント アナリストの海老名剛氏が運用保守コストの基本構造から、パッケージなどでのベンダーとのコスト交渉のポイント、クラウドのコスト抑制のアプローチまでを解説する。
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図1:運用と保守で考え方は大きく異なる
(出典:ガートナー)

IT支出の7割が現行ビジネスの維持運営、さらに内訳を3つに分類

 ITシステムの運用保守コストはIT部門にとって頭の痛い問題だ。一般に総IT予算の7~8割を占めるとされ、近年ではクラウド利用料の伸びも顕著だ。この状況の改善を抜きにはDXをはじめとする戦略投資の推進は難しい。

 「そこでの第一歩が、『運用』と『保守』に対する正しい理解です」と語るのはガートナー ジャパン バイス プレジデント アナリストの海老名剛氏だ。

「両者は一括りで語られがちですが、運用はシステムの維持、保守は変更・強化と目的それぞれ異なります。その点を踏まえ、ベンダーのサービスと自社での実施を両にらみで策を詰めていくのがコスト削減の基本的なアプローチになります」(海老名氏)

 そのうえで、海老名氏は国内企業のIT支出のうち、現行ビジネスの維持運営にかけている割合を提示。それぞれ「パッケージの運用保守コスト(40%)」「アドオン/カスタムの運用コスト(40%)」「クラウド(SaaS)のコスト」の3つの削減策を提示した。

ベンダーをコスト交渉の土俵に上らせる“策”

 まず、1つ目の「パッケージの運用保守コストの最適化」の進め方について海老名氏は、「運用保守は極力内部で行うべきとの考えもあります」と前置きしたうえで、「パッケージの場合は、ベンダーのサービスをあえて検討すべきです」と訴える。

 パッケージは定常的なプログラム更新はなく、また、ベンダー各社から「AMS(Application Management Service)」や「AMO(Application Management Outsourcing)」などの、汎用的な運用サービスがいくつも提供されている。「それらの利用を通じて戦略的なIT施策に、より多くの人材を割り振れる環境を整えるのが、ITソーシング戦略での重要な戦術の1つです」と海老名氏は語る。

 問題となるのがサービスのコストだ。契約額は一般に作業の標準単価と工数の乗数で算出され、費用対効果を最大化するには、必然的に標準単価とサービスレベルについてのベンダーとの交渉がカギを握る。

 海老名氏が交渉のポイントに挙げるのが、「プログラム変更を伴う作業を作業に組み込まないこと」だという。運用には必要ない高度な技術を備えた人材を外すことで標準単価を抑えられる。プログラム変更を通じてソースコードを自社で把握できなくなる、いわゆる乗っ取りによる将来的な不当な契約リスクも回避できる。

 また、「作業とSLAを明確化したうえでの適材適所の人材配置」も重要だという。エンジニアリング単価は人手不足で上場傾向にあるが、海老名氏が推奨する手法であれば現時点で1人月70~100万円で適切な人材の確保が可能だという。

 ただし、売り上げ減に直結するだけに、ベンダーは作業明細の公開に総じて後ろ向きだ。そうした中でベンダーを交渉の土俵に上らせる策が、複数ベンダーからの見積もりの取り寄せと、ベンダーを長期的なパートナーとして選定することを匂わすコミュニケーションだ。

「パッケージはそもそも定型業務を担うシステムで、競争力を生むものではありません。また、運用サービスは市場に豊富に存在し、他社への切り替えも容易です。それらを踏まえて強気に出つつ、長期的な契約も提示することで、ベンダーが交渉に応じる可能性を確実に高められます」(海老名氏)

 “鞭”の一方で“飴”も大切だ。運用保守業務ではAIなどの最新のIT活用が広がりつつある。その結果、ベンダーの人手による工数を減らせた場合には、削減分にも一定の料金を支払うなど、努力に見合った利益が得られるように契約内容を工夫すべきだという。海老名氏は、「こうした配慮でベンダーと明細レベルでのコストの議論を自然に持てるようになります。また最新技術に触れやすくなることが、社内のDXの種まきにもつながります」と解説する。

 一方の、パッケージの「保守」はどうすべきか。結論を言えば、ソースコードの著作権はベンダーに帰属するため、基本的にベンダーに頼らざるを得ない。とはいえ、コスト削減の努力は必要だ。一般に保守料金は毎年、2~3%ずつ値上がりするが、物価上昇以上の値上がりは確たる根拠に乏しい。この立場から交渉に臨むとともに、調達したが使っていない、いわゆる休眠ライセンスをクラウドのサブスクリプション契約に切り替えるといった策でコスト圧縮に取り組む。

「場合によっては第三者保守も検討すべきです。バージョンアップは望めない代わりに、塩漬けシステムではコスト削減策として極めて有効です」(海老名氏)

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図2:第三者保守の検討/利用状況と利用可能なケース
(出典:ガートナー)

【次ページ】アドオン/カスタム運用は自社で手掛けるべき
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