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日本の人口減少が想像以上に深刻な事態となっている。今後、人口が急激に減っていくことは社会の共通認識だが、想定されている人口減少のスピードは従来の出生率がベースになっていた。ところが現実の出生率は予想を大きく下回っており、このままでは人口減少のペースが加速する可能性が高まっている。公的年金制度や医療制度は、従来の人口減少スピードを前提に構築されており、もし、想定を超えて人口減少が進んだ場合、財政は一気に悪化する。現時点でも年金の2~3割の減額がほぼ確実といわれる中、さらに年金額が引き下げられる可能性も出てきたといって良いだろう。
これまで人口はほぼ横ばいだったが……
2019年11月時点における日本の総人口は1億2618万人となっている。日本は人口が減っているとされるが、2000年の人口は1億2692万人、2010年は1億2805万人とごくわずかだが増えていた。2010年以降は徐々に減り始めたものの、2015年時点ではまだ1億2709万人の人口だったので、横ばいか微減という表現が正しい。
だが、今後は状況が大きく変わる。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2025年における人口は1億2254万人、2030年は1億1912万人、2040年には1億1091万人と急激に人口が減少し、2053年にはとうとう1億人を割り込む。これは人口70万人程度の大都市が毎年1個ずつ消滅していくペースだ。
これだけのペースで人口が減れば、国内の消費市場もその分だけ確実に縮小していくので、国内市場に依存している企業の業績は低迷する可能性が高い。このところあらゆる業界で、統廃合の動きが出ているのは、これまで経験したことのない急激な市場の縮小が目前に迫っているからである。
人口構成が大きく変わらずに人数だけが減るのであれば、単純な市場の縮小だがそうはいかない。人口の絶対数が減っていくだけでなく、高齢化もさらに進展すると予想されている。高齢者になって第一線から引退した人は、生産には従事しないが、その人たちの消費がなくなるわけではない。人口が減っているにもかかわらず、高齢者の比率は上昇するので、人手不足が今後、さらに深刻になる可能性が高いのだ。
つまり、各企業は市場全体の縮小に対応するだけでなく、生産力の低下にも対処する必要がある。具体的な方法としては、AI化やロボット化ということになるだろうが、こうした省力化にうまく対応できない場合、労働人口の減少に伴って生産が低下し、供給制限からインフレが発生しやすくなるだろう。
日本企業にとっては、これまで経験したことのない事態であり、まさに大きな試練といって良い。だが、ここにきて人口減少ペースの加速という、さらにやっかいな問題が浮上してきた。
年金2,000万円問題はあくまで今の人口減少ペースが前提
日本は人口が減っているので、当然、出生数も低下しているのだが、このところ予想を超えるペースで出生数が減っているのだ。
厚生労働省の調査によると、2019年1月から9月までの間に生まれた子どもの数は67万3800人で、前年同月比で5.6%のマイナスとなった。2019年の推定出生数は87万人となっており、90万人を大きく割り込んでいる。これは想定していた時期よりも2年早く、足元で人口減少が加速していることを意味している。
このまま、人口減少ペースの加速が続いた場合、経済や社会に極めて深刻な影響が及ぶ。
最も大きいのは年金や医療だろう。日本の公的年金は、現役世代が支払う保険料で高齢者の生活をカバーする賦課方式となっており、現役世代の比率低下は、年金財政に直結する。
少ない人数で大量の高齢者を支えることは現実的に難しいので、政府はマクロ経済スライドという制度を導入しており、現役世代の人数が減った分だけ年金給付を段階的に減らす措置を実施している。2019年はマクロ経済スライドが4年ぶりに実施されたが、2020年も引き続いて発動され、年金額が実質的に減らされる見通しである。
現在の経済状況が続いた場合、年金財政を安定させるためには、現時点との比較で2~3割の年金を減らす必要がある。昨年は金融庁の報告書案に、「老後に2,000万円が足りない」という記述が入ったことが波紋を呼んだが、これも同じ理屈である。つまり今のままでは年金は2~3割の減額が必至なので、自己資金での準備が必要という流れである。
だが、これらの話はすべて既存の人口推計が元になっている。もし人口減少のペースが予想よりも急激だった場合、これらの大前提がすべて崩れてしまう。年金の減額が2~3割では済まないとなれば、国民生活にはかなりの混乱が生じるだろう。
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