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「カスタマーサクセス」という単語を耳にする機会が増えてきました。これは一過性のブームではなく、大きく時代が変化する中で誕生したコンセプトではあると筆者は考えます。これからの企業経営において、その重要性が高まることはあっても、けっして下がることはないでしょう。本記事では、「カスタマーサクセス」について基本的な内容を中心に整理します。
カスタマーサクセスとは?
「カスタマーサクセス」とは何でしょうか? 直訳は「顧客の成功」です。カスタマーサクセスという言葉は現在、2通りの使われ方をします。
1つは、「企業経営における“価値観”(バリューとも表現される。企業として大事にしたいこと)、戦略的な重点方針・テーマ」として。
もう1つは、「職業・業務として、カスタマーサクセス担当やカスタマーサクセス活動のこと」です。
企業経営における“価値観”としてのカスタマーサクセス
昔から日本企業の多くで「顧客第一主義」などの理念や経営方針が掲げられますがこちらとほぼ同じ意味です。ただし、顧客第一主義という号令だけで、実際は形骸化したケースも多かったようです。しかし現在は、「顧客第一主義」が「カスタマーサクセス」というコンセプトに代わり、その重要性が高まっています。
職業、業務、活動としてのカスタマーサクセス
名刺交換をした際に「カスタマーサクセスマネージャー」「カスタマーサクセス部」といった役職・肩書を目にすることが増えました。では、彼らは具体的にどのような役割、業務を担うのでしょうか?
主にIT業界で企業のカスタマーサクセス担当者が集うJCSC(Japan Customer Success Community)では、職業としてのカスタマーサクセスの役割を下記のように定義しています。
顧客を成功させる為に、自社の提供サービスの価値を最大限に引き出せるよう支援する。結果としてChurn(解約)低減、アップセル、ポジティブなクチコミを実現し、自社の利益に貢献する(人材)
企業は、何かしらの製品やサービスを顧客に提供することで収益を上げており、一方で顧客は、実現したいこと(ジョブ)があって、さまざまな製品やサービスを選び、購入し、利用しています。
カスタマーサクセス担当者は、購入・契約後の顧客に、さまざまな方法で働きかけ、より積極的に関与します。これにより顧客が自社の製品、サービスを使って、顧客が実現したいことを支援する役割を担います。
これまでは、製品を販売した後、“何かあればいつでもご相談ください”という受け身のサポートはありましたが、そこから一歩進んで、自発的に顧客の課題解決や片付けるべき仕事(ジョブの達成)に貢献するということです。
これにより、自社の製品やサービスの「離反や解約の防止(継続率の向上)」「既存顧客へのアップセル・クロスセルの増加」「顧客あたりのライフタイムバリュー(LTV)の増加」などの実益的なインパクトをもたらします。
カスタマーサクセスの普及状況は
2017~2018年から「カスタマーサクセス」という単語を耳にする機会が格段に増えました。アイティクラウドとバーチャレクス・コンサルティングが2019年3月に20~65歳のビジネスパーソン(有職者)2万6296人を対象に実施した
ネット調査によれば、「カスタマーサクセス」という単語を耳にしたことがあるのは、ビジネスパーソン全体の約13.7%とのことです。
この調査で、カスタマーサクセスを「よく知っている」「少し知っている」と回答があった中では、「勤務先でカスタマーサクセスに取り組んでいる部署、または担当者がある/いる」は25.5%、「今後取り組む予定」は16.5%という結果が出ています。カスタマーサクセスに取り組み中の企業は2.8%程度という結果で、キャズム理論ではイノベーターのみが取り組んでいる状況です。
また、カスタマーサクセスは「外資系企業」のほうが認知度が高く、取り組む企業の割合も日本とは2倍以上多かったといいます。
さらに、従業員規模別で取り組み状況では、1万人以上の企業で一番高く、「取り組んでいる部署、または担当者がいる」と回答した割合が44%でした。従業員規模が大きいほど、カスタマーサクセスの取り組み実績があり、必要性を感じている企業が多いという結果が出ています。
カスタマーサクセスが注目される背景
ではなぜ今、カスタマーサクセスが注目され、その重要性がさらに高まるとされるのでしょうか。 それは、ビジネスの環境変化に起因しています。ここでは既知のことも含めて、いくつかの変化を取り上げてみたいと思います。
●市場の成熟化
経済のグローバル化が進み、世界のどこでも同じようなモノを作ることが可能になり、日本をはじめ先進国の多くでは、多種多様な製品があふれています。買い手側には選択肢がたくさんあり、売り手側の企業にとっては競合が多い状態です。 新機能を開発しても、数カ月ですぐに真似され、差別化が難しくなります。機能や技術による優位性が長くは続きにくい時代になっています。
●サービス業化
製品そのものを販売しているだけでは価格競争に陥って利益を確保できなくなってきたこともあり、保守やメンテナンスを代表とした“サービス”が重要になりました。サービス市場は製品市場よりも利益率も高いケースが一般的です。とりわけ、日本の製造業では、以前より「モノからコトへ」といったキーワードで、製造業をサービス化する必要性が論じられてきましたが、これは何も製造業に限った話ではなく、今後、多くの業界において、サービス業化が進んでいくことでしょう。
●サブスクリプションモデル化
製品を販売した上で、保守やメンテナンスのようなサービスを付加する「製品販売+サービス提供」が一般的になりましたが、ここにきて、製品の販売はせずに、サービスのみをサブスクリプション型(サービスを一定の期間で利用する契約する)で提供する形式が登場しました。 これにより「所有から利用へ」の流れが生まれています。
従来は高いお金を出して購入しなければならなかった製品が、その製品を購入するのではなく、サービスとして利用できることになります。今までは1000万円で購入しなければならなかったモノも、月額10万円の利用契約で使い始めることができ、不満があれば、契約期間終了後に解約できるというモデルです。
電気などの公共サービス、携帯電話などの通信サービス、新聞の定期購読など、サブスクリプション型の契約形態は古くからありました。しかしここにきて、従来はそのような契約形態がなかった業界や市場にまで、サブスクリプションが広く浸透し始めました。
中でもIT・ソフトウェア業界は、「クラウド」によってそれがいち早く進んだ業界です。「クラウド」という言葉を初めて使ったと言われるグーグルの設立は1998年、法人向けにクラウドサービスを提供するセールスフォース・ドットコムが設立されたのはその翌年の1999年ですから、わずかこの20年の出来事なのです。
●ソーシャル化
食べログなどに代表されるクチコミやレビューを投稿するサイト、ツイッターやフェイスブックに代表されるSNSの登場により、ネットワークを通じて人と人との双方向コミュニケーションが、手軽に、即座に、より広範囲にできる状態になりました。これにより、口コミや評判はすぐにシェアされ、その影響力がはるかに増大しました。
私達の日々の行動を振り返っても、何かを購入する際には必ず事前に検索し、クチコミや評判をチェックすることが当たり前になっていますが、これも特にこの10年で進んだことです。
●シェアリングエコノミー化
Airbnbやウーバーに代表される「持たずにシェアする」サービスが多数登場し、国内でも、“モノを買わない時代・持たない時代”が、加速していくでしょう。すでに総務省をはじめ、さまざまな研究機関が発表するシェアリングエコノミーの市場規模に関するいずれのレポートでも、この10年で数倍~数十倍規模になることが予測されています。
顧客体験(CX)が劇的に重要になった理由
このような環境の変化の中で重要になってきているのが、「体験」というキーワードです。
これまでの企業経営においては、特に購入前を重視したセールス/マーケティング活動を重視してきましたが、今は、購入後の「体験」にシフトしつつあります。 購入していただくだけではなく、利用してきちんと満足し、「使い続けてもらう」ことが重要になりました。そこでキーとなるのが「体験」です。
これまでも「リピート顧客」の重要性は語られていました。しかし、競争の激しい成熟した市場において、サービス業化が進み、サブスクリプションモデルが主体となると話は変わります。それは企業において重要というレベルを超えて、契約の継続こそが事業の生命線となります。
これにより、経営上の参考指標レベルの1つだった「顧客満足度」がこれからは企業経営の売上・収益に直結するようになるのです。
顧客が契約を継続するかどうかは、その製品サービスを通じて達成したかったことが実現できているかどうかで決まります。そこで、従来の受動的なカスタマーサポートから、より能動的なカスタマーサクセスの重要性が高まってきたのです。
カスタマーサクセスとCXの関係
モノ消費することより、「体験」を重要視するようになる社会では、あらゆる産業において、サービス化・サブスクリプション化が急速に進んでいきます。
たとえば、日本における主要産業である自動車業界でも、トヨタがソフトバンクなどと組んでMaaS分野での取り組みを始め、カーシェア事業に自ら参入するなど、車を売らずに、モビリティサービスを提供しようとしています。
そして、ほかの自動車メーカーや異業種からの参入を含め、同一分野で複数の企業が競争するようになると、そこで提供する製品、サービスの機能自体では、ほとんど差がつきづらくなってきます。
スマートフォンがよい例です。アップルがiPhoneを発売してから10年以上が経過しました。各社スマートフォンの機能表を比較しても、一見するとほとんど違いが分かりませんし、新機能が発表された数カ月後には同様の機能を搭載した新製品がリリースされてしまいます。
このような時代、大きな競争力の源泉となるのが「顧客体験」=カスタマーエクスペリエンス(CX)です。
CXは、製品やサービスの利用時の体験(使い勝手など)の意味合いで利用されることが多い「ユーザーエクスペリエンス(UX)」よりも、顧客と企業との関係をより幅広く捉えて使われる言葉です。商品やサービス購入前の販促から購入後のサポートなど、自社の商品やサービスに関連する顧客体験すべてが対象です。
そして、このCXの時代においては、カスタマーサクセス担当者が、CX全体のマネジメントにおいて重要な役割を担うようになるでしょう。
カスタマーサクセスの実践企業例
実際どのような企業が取り組んでいるのでしょうか。「カスタマーサクセス視点」での取り組みをしている企業をいくつか紹介します。各社の詳細は割愛します。
セールスフォース・ドットコム
企業向けのクラウドサービスの大手で、カスタマーサクセスを語る上で外せないのが同社です。カスタマーサクセスという言葉は、同社の創業者であるマーク・ベニオフ氏が発案し、強力なリーダーシップをもって推進し続けていることが、同社飛躍の原動力になったといわれています。
SanSan
企業向け、個人向けの両方で名刺管理サービスを提供されている同社は、国内でも有数の体制を組織し、また、データに基づいたカスタマーサクセス活動を展開しています。
Repro
モバイルアプリ向けのマーケティングプラットフォームを提供する会社です。最高顧客責任者(Chief Customer Officer;CCO)を設置し、積極的にカスタマーサクセス活動を展開しています。
【次ページ】オイシックスやブリヂストンの事例とは? カスタマーサクセス活動の計画・実践方法を解説
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