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  • 2017/01/24 掲載

ネスレ日本と日産自動車の「ブランド」は、なぜイノベーションをもたらすのか

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企業の成長にはイノベーションは必要不可欠であり、それは誰も否定し得ないことである。どの企業もイノベーションの実現に向けて膨大な時間と人的資源を投入し、試行錯誤を繰り返しているが、それが実を結ぶことは少ないのが現実である。しかしながら、一方ではイノベーションの実現を常態化している企業も存在している。その施策にどのような違いがあるのであろうか? 今回は、ネスレ日本と日産自動車の事例を通じて、「ブランド」という視点が、なぜイノベーション実現の手助けとなるかを紐解いていきたい。
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「ネスカフェ レギュラーソリュブルコーヒー」は改善的イノベーションだ
(出典:ネスレ日本 プレスリリース)


なぜブランド視点はイノベーションの実現に必要なのか

 ブランド視点とは、企業のさまざまな技術やサービスが、消費者にとってどんな価値や経験をもたらすかを消費者目線から捉える発想であり、その集積は消費者にとって企業を唯一無二のものに転換する。さらにブランド視点は、イノベーションのアイデアが消費者の欲するものなのか、彼らが経験したい、購入したいと喜んで思うものなのか、そしてその喜びがずっと継続するものなのかを判断する目線であり、イノベーションの実現性を、消費者の目線を通して膨らませることにつながるのである。

 ある大手自動車会社の技術担当者と話をした際、彼が発した印象的な言葉がある。「うちの経営陣は、我々にその技術は今までの技術とどう異なるのか、それはどう新しい技術なのかを徹底的に問いただしてくる。そして技術的な差異に少しでも納得出来ないところがあると、そこに投入された時間の長さに関係なく、またゼロから考え直さなくてはならない。その果てしない連続が自分の仕事だ」という言葉である。

 技術に対する強いこだわりや誇りを感じる一方で、彼らの技術的イノベーションへの判断基準が技術そのものから来ていること、企業の成長のためにはイノベーションが鍵であることを深く認識しながらも、そのイノベーションが顧客の求めているものかどうかという視点が希薄であることの証左と言えるのではないだろうか。多くの日本企業の経営者が抱える現実的なイノベーションのジレンマである。

デービッド・アーカーの提言を一歩推し進める必要性

 ブランド論のリーダー的存在であるDavid A. Aaker(デービッド・アーカー)氏が2011年に”Brand Relevance – Making Competitors Irrelevant(邦題『カテゴリーイノベーションーブランド・レレバンスで戦わずして勝つ』電通ブランド・クリエーション・センター)”を上梓してからすでに5年が経過している。

 彼は”ブランド・レレバンス”という考え方を通して、消費者インサイトの変化に応えるイノベーションが、競合他社の参入が難しい新しいサブカテゴリーを創出し、そのサブカテゴリーの価値を常に進化させることが競合を持続的に排除し、企業の成長につながると提唱している。

 しかし、この彼の提唱の中で曖昧なままになっている重要な事がある。それは、ブランド視点は変革的イノベーションと改善的イノベーションの、どちらにより大きな効果をもたらすかという事である。筆者は、既成のサービスや商品の価値を根底から覆すような全く新しいサービスの導入が、変革的イノベーションを意味し、改善的イノベーションは消費者のインサイトの変化に基づき、サービスや商品の価値をその変化に応じて向上させていく事を意味していると考える。

 どちらにしても実現の確度を問わないのであれば、イノベーションはブランドが無くても可能である。特に変革的イノベーションは、既存の市場には存在しないことが前提になるので、それ自体がブランドになり得ると考えられる。消費者インサイトを取り入れたブランド視点は、B2Cにおける「改善的イノベーション」の実現性を増すことにこそ有効であると考えている。

重要性を増し続ける消費者とブランドの関係性

 イノベーション実現のための、消費者とブランドの重要性は高まり続けている。単に便利さや効率の良さなどの機能的な充足を感じられれば満足だった時代から、心の充足感を求める情緒的な充足への進化、そして情緒的な充足から時間や思い出、記憶、体験を買いたいと思う経験的充足へのシフト、そして最近、顕著に表れているのが「ブランドとの密接な関係構築への欲求」へと、消費者はダイナミックに変化を遂げている。

 この変化の意味を正しく理解することが、改善的イノベーションを実現するためのベースになっていくのである。なぜなら消費者の欲求を満たさない改善的イノベーションは、彼らには全く魅力的に写らないものになり、意識すらして貰えないものになってしまうからである。

 では現在の消費者が求める「ブランドとの密接な関係構築への欲求」とはどういう事を意味するのであろうか。その欲求はさまざまな要素を内包しているが、以下のポイントに集約することが可能である。

(1)自分が欲しい情報、サービス、経験をタイムリーに、スピーディーに、しかも自分が満足できる必要な量と質を受け取れること。つまり「大勢の中のひとり」という扱いではなく、自分に必要な製品、情報、サービスが1対1の感覚で手に入ること

(2)ブランドが提供する機能的価値、感覚的価値は絶対的な条件としてあり、その上でストーリー性が高く、また共感度の高いブランド経験から来る記憶、思い出、時間的充足などが手に入ること

(3)自分が認め、愛するブランドを、そのブランドと一緒に継続的に活性化、進化させたいという強い思い。つまり自分自身がブランドの構築のために能動的に参画したいという思いがあるということ

 この3点を常に意識しているブランドこそが消費者に積極的に受け入れられ、彼らと会話をすることで課題やインサイトを明確に定義でき、それに基づく改善的イノベーションが可能になるという時代に突入しているのである。では、どのような企業が実際にそういう事を実現しようとし、またその企業は何を考えているのかを見てみたい。

顧客のためのイノベーションを確実に実現するネスレ日本

 ネスレ日本は会社の各部門がマーケティングの考え方から顧客を見て、それぞれの顧客が抱える問題を解決することを全社的に実践している。つまり、ネスレの各製品の顧客はもとより、人事や経理、サプライチェーンなどの機能部門の「顧客」の課題をも、それぞれの立場からイノベーションにより解決する会社と位置づけているのである。

 このような明解な方針の打ち出し方をしている企業、そしてイノベーションの役割を明解にしている企業は稀有である。さらにネスレ日本をユニークな企業にしている点がある。グローバル企業のネットワーク下にあるローカルオフィスの経営戦略は、ヘッドオフィスからの指示に従う事が多い。しかしながら、ネスレ日本のイノベーションはネスレ日本固有のものが多く、その彼らのイノベーションが各グローバルオフィスに拡大していることにある。彼らの考えるイノベーションの実現のための特徴はどこにあるのだろうか。

(1)顧客の課題解決を時間軸で捉えること
顧客が意識的に、或は、無意識に感じる課題に関わらず、その時点で解決できるもの、出来ないものに分け、その時点で解決できるものは即実行に移し、時間を要する課題は、テクノロジーの進化、顧客の変化などの観点から、何年後にどうすれば解決できるのかを見分けた上で、どのようなイノベーションを実現すれば良いのかを明確化していること

(2)ブランド目線からのイノベーション開発
 さまざまなイノベーションアイデアの創出を全社員的な課題と設定し、各々の顧客課題の観点から、どのようなイノベーションが課題解決のために適切であるかを捉えていること。具体的には「イノベーションアワード」という施策を毎年実施し、社員それぞれの顧客が抱える問題の解決のためのアイデア、実行プロセス、そこから得られる成果を社内募集しているのである。この取り組みはネスレのグローバルネット―ワークで大きく広がりつつある試みである。

 それらの取り組みから生み出したのが、基幹ブランドであるネスカフェのソリュブルコーヒー(インスタントコーヒー)に改善的イノベーションを加え、砕いたコーヒー豆を入れることでより本格的なコーヒーを楽しめるレギュラーソリュブルコーヒーに進化させたことである。

 消費者の「いつでも、どこでも、どのような時にも、リラックスしたコーヒータイムが欲しい」という消費者インサイトに応えるために、バリスタ(コーヒーマシン)もあわせて提供している。さらにはオフィスでの会話を促進するコーヒーの役割に着眼し、アンバサダーのスキームを採用している。消費者課題の解決とイノベーションの連携が、まさにネスレ日本の企業姿勢だと言える。

ネスレと日産に共通する「ブランド視点」のイノベーションとは?
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