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- 2012/10/23 掲載
JT新貝康司副社長が語る、海外企業のIT統合における3つの重要ポイント
日本最大の大型企業買収から得たもの
買収で一番重要なのは、自社で主体的に検討し、作業すること
このうち、海外企業の買収に関連して、JTグループの海外たばこ事業を担当するのがJapan Tabacco International(以下JTI)で、スイスのジュネーブに本社を置き、日本と中国以外のたばこ事業を管轄している。1999年5月に米RJR Nabiscoの海外たばこ事業会社であるRJR International(以下RJRI)を約9,400億円で買収、2007年4月には英ギャラーを約2兆2,000億円で買収し、世界第3位の地位をより強固なものとした。
「これらの買収によってJTは、世界トップを狙うための基盤を盤石なものにすることができた。現在JTグループのたばこ販売数量の8割を海外事業が占めている。海外たばこ事業利益の大幅な増加が、経営の安定に寄与するようになった。」
また新貝氏は2社めのGallaher社の買収目的を、地理的拡大および規模の拡大、世界マーケットの相互補完性、技術/流通インフラの強化だと説明。買収で一番重要となるのは、買収する会社自らが“主体的”に買収を検討し、作業を行うことだと強調する。
「たとえば投資銀行から投資案件を持ち込まれ、そこで初めて検討するということでは買収は絶対に成功しない。我々はどういう企業がターゲットになり得るのか、日々検討している。」
また買収を進める上で特に留意しなければならない事項として、新貝氏は、買収目的の明確化、対象企業の選択、企業価値(=買収価格)の算定、適切なアドバイザーの選択と活用を挙げる。
JTではGallaher社の買収を2006年12月に発表したが、実際の検討はその3年も前から開始したという。買収対象企業も当初は数社で、それを2006年半ばにGallaher社に絞り込んだ。
「買収プロセスの中ではいくつか節目が出てくる。入念に買収監査を行ってみると、我々が想定していたのとは違う姿が浮かび上がってきたり、あるいは契約交渉の過程では自分たちが望むすべての条件を獲得できるわけではない。その時には“なぜこの買収を行うのか”という当初の目的に立ち返り、どこまで手を打てるかを考えることが重要だ。」
買収によってどれだけのシナジー効果が見込めるのかも十分に算定しておく必要がある。ただしこの点についても投資銀行などに試算を依頼すると、過去の事例を参考にして“こういう売上や事業ならこれぐらいの効果が見込める”というマクロな話しか聞くことができないという。
「その情報に依拠して買収を行うことはできない。そこで我々は買収交渉の前までに、世界中の各マーケットで、買収によって一体どんな効果が出るのかを1つ1つ、ミクロに検証していった。それらをすべて印刷すれば、3~4センチの厚さにもなる資料だ。そうして交渉に臨んだ。」
また買収に関わる仕事をすべて外部に丸投げするのではなく、適材適所でアドバイザーに入ってもらい、そのチェックはしっかりと発注側で行うことも重要だという。
買収の成功可否は、統合作業の成功によって判断すべきもの
次に新貝氏は、その買収が成功かどうかを決定付けるのは、買収のプロセスではなく、何と言っても買収後の統合作業にかかっていると強調する。「買収の成功は買収の発表ではなく、統合の成功を持って判断すべきものだ。」
Gallaher社の買収発表までは、JTIのジュネーブと東京で20名の人間が仕事をしていたが、買収後にはJTI、Gallaher社の全社員2万3000人を巻き込んだプロジェクトに変貌することになる。
「統合作業時には買収側、被買収側の社員だけでなく、双方の役員も普段の仕事が手に着かなくなる。こういう現実になることは常に頭に入れておかなければならない。」
また不安定な状態が続けば、自社のチャンスだと思って取り組む買収が、競合他社に付け入る隙を与えることにもなり兼ねない。実際に1999年のRJRI買収時には統合計画を作成するのに8か月を要し、その間に人のモチベーションが大きく下がってしまった苦い経験があるという。そこでGallaher社の買収時には統合計画を100日で作ることにした。
「そのためにはJTIからJTにいちいちお伺いを立てていてはスピードが上がらない。そこでJTIに大幅な権限移譲を行った。また統合における基本原則を作り、全社員に繰り返し重要性を訴えることで順守を徹底させるという取り組みも行った。」
【次ページ】ITの統合作業時における重要な3つのポイント
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