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人材の育成、戦略、コストの最適化、モバイルデバイスやソーシャルネットワークへの対応と活用…。こうした企業ITの課題は長年の命題であり、新潮流の台頭でますます複雑化している。実際の企業の現場では、こうした動きにどのように対応するべきなのか。日本たばこ産業(JT)、ライオン、カゴメ、アサツー ディ・ケイなどのユーザー企業28社88名の情報システム部門のメンバーで構成された「企業IT力向上研究会」のメンバーがこうした課題に正面から向かい合い、その成果を発表した。
急務なのに進まないIT“人財”育成
企業IT力向上研究会は、ITを有効活用して企業の競争力や成長力を向上させる実践的な研究を行う、有志企業28社88名のプロジェクトだ。2008年にアイ・ティ・アール(以下、ITR)のかけ声で発足された同研究会は、「実行可能なプラクティスを調査・研究して、その成果をメンバー企業で共有、展開する。最終的には、日本経済の競争力向上に貢献すること」(企業IT力向上研究会会長 カゴメ 経営企画本部 情報システム部部長の竹内宏和氏)を目的としている。
年間活動スケジュールは、7月開催の総会に向けて参加募集を行い、9月から各研究部会の活動を開始、翌年2月に中間経過発表を行ってから、7月に活動成果を発表する。第4期となる2011年度は、8つの研究部会が設立された。ITR主催の「IT Trend 2012」では、そのうち5つの分科会が成果を発表した。
最初に成果を発表したのが「本気で考える! IT人財育成」分科会で、日本たばこ産業 IT部部長 鹿嶋康由氏が発表した。まず鹿嶋氏は、成果主義や高年齢化、年齢構成の歪みによって現場中心の人材育成が機能しなくなっている実態を指摘。一方で、国際競争や厳しい経営環境に打ち勝つためには、競争力のあるITが必要で、成果を出せる人材育成が急務になっているという。
「激しく変化するITトレンドを追うには、専門性の高い人材が必要だ。こうした人材が集められたが、それぞれが自分の分野で仕事するため、コミュニケーションは希薄になる。結果、個人のサイロ化が進み、人材育成や技術継承のコミュニティが崩壊した」(鹿嶋氏)。
そこで、同研究会は強いIT人材を育てる仕組みをテーマに、育成のためのフレームワークや検討フォーマット、プロセスを提案した。「業務改革」「ソリューション提供」「サービスエンジニア」の役割に対して、どのようなビジネススキルとITスキルが求められるかを整理し、現場責任者が改革リーダーへと成長するのに必要な成果やスキル、行動を明確化した。そして、実践とフィードバックを繰り返しながら成長を促す。「時間と場、投資によって人は変わる。中期計画として継続的に取り組む姿勢が必要だ」(鹿嶋氏)。
エンタープライズアーキテクチャを実現する自社診断ステップ
続いて「業務プロセス(ITアーキテクチャ)」分科会の成果を、ライオン 統合システム部 副主席部長 阪間勇一氏が発表した。IT部門は、システムの老朽化への対応や維持費用の削減、セキュリティ対策など、常に膨大な課題に追われている。そのため、つい個々の対応にとらわれてしまい、構築に人材も時間もかかるエンタープライズ・アーキテクチャは未だ実現できていない企業が多い。
こうした現状を打破してステップアップするには、まず自社の状況を理解することが重要だ。そこで、同分科会はメンバー企業の事例をベースにエンタープライズ・アーキテクチャの要件を洗い出し、「企業ITアーキテクチャ成熟度診断ツール」を作成した。
このツールは「企業規模と複雑度チェック」「ITアーキテクチャ策定チックリスト」で構成され、後者のチェックリストは「ビジネス」「アプリケーション」「データ」「インフラ技術」の4つのドメインに分かれている。
「定量化、レベル化できる評価軸を設けて、自社の位置づけを可視化し、経営者への効果的な説明材料になるよう考慮した」(阪間氏)。
診断は、オリエンテーション、質問票への回答、ヒアリング、レポート作成の4ステップで進められる。実際に診断ツールをテスト利用した企業からは、現状が把握でき、将来の方向性を確認できたと評価が高かった。ただし、診断の4ステップをより的確に進めるためには習熟も必要であり、これについては今後の議論にしたいと阪間氏は展望を述べた。
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