- 2011/09/30 掲載
【事例紹介:石垣市】域内での行政サービス・情報提供の格差解消に向け、自治体連携でクラウド型ICT基盤を構築
遠隔相談やデジタルサイネージなどで行政サービス向上
<導入の背景>
自治体の垣根を越え、「子育て支援ICT基盤整備事業」に着手

ただ、生活環境の視点で見ると、港湾や空港などがある南部の市街地に都市機能が凝縮されているため、その他のエリアに点在する集落との格差を失くす均一的な行政サービスの提供、集落ごとに設置されている小中学校間での円滑な情報交換などに課題があった。
また、石垣市長の中山義隆氏は、「石垣島では離島にありがちな人口の減少がなく、この数年は漸増傾向を示しています。しかも総人口の中で若い世代の割合が高いという特徴もあります。そのため、行政施策の中では“子育て支援”が重要なテーマの1つになっています」と語る。
このような背景から、石垣市では、子育て支援を含めた市民サービス強化を図るべく、ICTを活用した遠隔相談および 情報提供の仕組みを導入したいと考えていた。「石垣島は2006年に沖縄本島との光ファイバー接続、2008年には島内全域での光ファイバー網整備が完了していたので、このブロードバンド環境を有効活用して先進的な事例作りに挑戦したいという思いもありました」(中山氏)。
実は、石垣島に町役場を置く竹富町も同様の課題を抱えていた。竹富町が管轄する行政区域は、石垣島の南西に点在する竹富島、西表島、波照間島など16の島々(有人島9、無人島7)であるため、天候によっては往来が困難となり、町民へのサービス提供や各地の施設間の業務に少なからず影響を及ぼしていた。
同じ悩みを持つ両市町が連携して解決策を見出していこうとしたとき、タイミングよく国の施策が打ち出された。2010年4月、総務省が発表した「地域ICT利活用広域連携事業」である。
この機を捉え、石垣市と竹富町は「石垣市区子育て支援ICT基盤整備事業」の名称で、遠隔の集落や離島の格差解消に 向けたサービス提供に共同で取り組んだ。
<導入の経緯>
ランニングコスト抑制にも着目し、クラウド型システムの採用を決定
ICT基盤の具体的な活用方法としては、音声・映像・データなどを統合した遠隔相談システムによる行政相談サービスと、大型ディスプレイを用いたデジタルサイネージによる健康啓発・子育て支援情報配信サービスの提供を計画した。
システム要件のポイントについて、石垣市 企画部 部長の吉村乗勝氏は次のように語る。「第一の要望に掲げたのは、誰でも利用できるように分かりやすく使いやすいことでした。将来のサービス展開を視野に入れて先進性・拡張性も重視しました。そしてコスト面に関しては、イニシャルコストは国からの補助でカバーできるので、ランニングコストをいかに抑えられるかに目を向けました」。
こうした要望に対してNECは、地元の放送事業者を含む2社とジョイントベンチャーを組み、クラウド型のICT基盤によるサービス展開を提案した。その中で、システム全体の取りまとめ役とネットワーク構築、そしてユニファイドコミ ュニケーション環境をオールインワンで提供する、クラウド型の遠隔相談システムの構築・運用を担当した。
「NECは光ファイバー網整備のプロジェクトにも参画してくれていたので、地域の実情を理解しているベンダーとして以前から信頼感を持っていました。また、地元企業と連携した提案も評価できるものでした。もちろん、クラウドシステムの活用という先進的な内容も私どもの意に十分適っていました」と、吉村氏は話す。
こうして2011年1月に発注を行い、約1カ月半で評価システムを構築。試験運用と並行して調整を進めながら3月末に導入作業をすべて完了し、新年度の4月1日から本格運用をスタートした。
工程はかなりタイトだったが、NECでは複数の自治体でクラウドシステムを立ち上げた実績があったため、その経験を生かしスピーディに対応可能となった。
<システム概要>
遠隔相談時に資料を共有できる機能を高評価
石垣島・竹富町のICT基盤では、遠隔相談システムとデジタルサイネージのサーバ群を異なるデータセンターに設置し
て、各々で運用している。ただし、新規に構築した広域ネットワークや既存のイントラネットは両システムにて共有化とすることで運用の効率化を図っている。
遠隔相談システムは、相談相手の映像や参考資料データを見ながらの1対1のコミュニケーションに加えて、複数の場所を結んでやり取りが行える仕組みも採用。相談に使用する端末については石垣市内の5カ所の小学校および市役所、竹富町では町役場と西表島の東部・西部の各出張所、波照間島出張所にそれぞれノートPCを、石垣市の川平地区および伊 原間地区の公民館にはタッチパネル一体型PCを設置した。
操作は極めて簡単で、画面上に表示された施設をクリックあるいはタッチするだけで相手先を呼び出し、相手側が応答すればそのまま音声・映像でのやり取りを開始できる。吉村氏は、「画面上での資料共有機能が非常に便利。互いの声を聞き表情を見ながら、資料に書き込みなども加えて情報交換することで、きっちりと意思疎通が図れます」と、機能面でのポイントを掲げる。
具体的な利用シーンとしては、石垣市では小学校間での職員の情報交換やミーティング、竹富町では西表島の2出張所 と石垣島にある町役場の3カ所を結んでの保健師の定例会議や離島からの行政相談などが現在の主用途となっている。石垣市 企画部 企画政策課 企画係 係長の棚原長武氏は、「石垣市でも今後、2カ所の公民館に設置した端末を用いて、高齢者を対象とした健康チェックなどの遠隔相談サービスをスタートさせていきます」と説明する。
特に離島を行政区域とする竹富町では、かなりの利便性を感じているようだ。従来、保健師の定例会議を行うときには、西表島から石垣島まで約1時間をかけて集合していた。また、各離島の住民が町役場に出向く際にも相応の時間を要していた。こうした手間が、遠隔相談システムによって解消された。
一方、デジタルサイネージは、石垣市役所および竹富町役場、石垣市健康福祉センター内に2カ所、石垣港離島ターミ ナル、さらに石垣島内にある沖縄県立八重山病院の計6カ所に装置を配備し、子育て支援や健康・疾病予防に関する番組 などを配信している。当初は、住民に興味を持ってもらえる、わかりやすい番組を自分達で作れるのかという懸念もあったが、配信したい内容の文章や写真の材料だけを用意すれば専門スタッフに任せられる体制を整えるとともに、誰でも扱えるオーサリングツールによって住民参加型のコンテンツ制作も可能にした。
ICT基盤を活用したアプリケーションとして、当初の仕様にはなかったシステムも導入されている。石垣市の小学校1校で2011年6月から運用開始した一斉メール配信システムで、これもクラウド型で運用されている。
そもそもは「紙で配られる学校からのお知らせを直接保護者(の携帯電話など)に伝えられる仕組みを」というニーズに応えるために導入されたが、更に防犯や防災に関わる緊急情報配信にも役立てられている。
<導入の成果と今後の展望>
住民サービス強化に加え、災害対策としての活用にも意欲
遠隔相談システム、デジタルサイネージに対する住民の認知度および満足度は、非常に高い評価である。棚原氏は、「さらに今後は、ICT推進委員を地域ごとに配置して、住民の皆さんへの浸透、利用促進に力を入れていく計画です」と話す。また、遠隔相談システムの活用推進においては、相談を受ける行政側の体制整備や職員のスキル向上も重要なポイントとして捉えている。
システム運用の負荷が大幅に軽減されたこともICT基盤構築の大きなメリットの1つだ。「自治体が自らサーバを保有 して管理していくのは、業務負荷の面でもランニングコストの面でも決してプラスとは言えません。今回のクラウドシステム採用による効果を考えれば、今後導入あるいは更新するシステムについてもアウトソースを視野に入れて検討していくことになるでしょう」と、吉村氏は語る。
中山氏は、竹富町と共同でインフラ整備事業を推進したことの意義を強調する。「このICT基盤構築のプロジェクト を進めるにあたり、八重山地域の3市町では『八重山は1つ』を合言葉にしています。行政を横断したICT基盤を構築で きたことで、域内の一体感、連帯感も高まっていくと思っています」。もちろん、この共通インフラを生かした住民サービスや情報提供の拡充にも積極的に取り組み、離島ゆえの格差の解消に役立てていきたい意向だ。
さらに、現在どの自治体でも関心を高めている大規模災害への対策としても、安全で堅牢なデータセンターにシステムやデータを設置しているというクラウドシステムのメリットを生かして、各地域での緊急対応、あるいは行政サービス継続の仕組みを確立していく考えだ。そして、「そうしたICT基盤活用のさらなる展開においても、NECには最新の情報や技術面のアドバイスを提供していただきたいですし、積極的に意見交換しながらよりよいものを作り上げていきたいと思っています」と、NECの今後のサポートにも期待をかけている。
市役所所在地:沖縄県石垣市美崎町14番地
人口:4万8645人(2011年5月末現在)
■石垣市が導入した「UNIVERGE 遠隔相談ソリューション」
http://www.nec.co.jp/univerge/solution/pack/soudan/
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