0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
1000年に一度の大規模災害と言われる東日本大震災は日本の産業界に大きな打撃を与え、復興策が各方面から提案されている。野村総合研究所は3月15日に社長直轄の「震災復興支援プロジェクト」を発足させ、復興に向けていくつかの提言や調査結果を発表している。日本にとって未曽有の試練に対してICTは何ができるのか?同プロジェクトを統括する野村総合研究所 顧問 震災復興支援プロジェクトリーダー 山田澤明氏に聞いた。
広域・複合・長期の大災害
──今回の災害は地震以外に津波、原発事故などが加わってもたらされましたが、その特徴は何でしょうか?
規模の大きさに加え、被災地が広域にわたり分散していること、原子発電所の事故を伴い問題が広範囲で複合的であること、電力の供給不足も生じ、長期的な対応が必須になることなどが挙げられる。
復旧・復興には多くの緊急対策とともに新しい対応が必要となる。具体的には、(1)被災者の支援 (2)福島第一原子力発電所の事故対策 (3)地域の復興、産業の再生 (4)電力の需給対策 (5)今回の大災害を踏まえた中長期的防災対策の推進--が必要となる。
このような複雑化した被害に対応するには各事象に応じた知識と判断を欠かすことができず、これらの対策を協調させながら同時並行で推進する必要がある。それぞれの対策には新しい発想、クリエイティビティーが必須だ。
エネルギー政策は歴史的転換点に
──地震、津波は不可抗力的ですが、原子力事故については今後、どのように考えていけば良いのでしょうか?
エネルギー問題はオイルショック以降、日本の産業界にとって大きな課題であり、当社も国のエネルギー政策の仕事に携わってきた。従来は温暖化対策などから原子力発電は避けて通れない選択肢だったが、今回の震災で国のエネルギー政策は大きな岐路に立たされることになった。原子力が今後、有力な選択肢として使えないとなると、エネルギーを相当に節約していかなければならず、国民レベルでもライフスタイルも変える必要が出てくる。企業では既に今年は夏休みをずらしたり、長くするというところも出ている。
日本だけでなく世界的な経済発展のために、温暖化対策以外のもう一つ大きな制約条件が増えたわけだ。「原子力は安全だ」と言われてきたが、想定外の津波とはいえ、電源を喪失しただけで、今回のような本来あってはならない大変深刻な事故を引き起こしたわけで、今回の災害は歴史的な転換点となったと言えるだろう。
──原子力事故の問題に対して、短期的な対策として取り組むべきことはなんでしょうか?
原発事故で問題になっているのは放射能漏れであり、それを完全に封じ込めることが最優先で、同時に、できるだけ多くの場所で、常時モニタリングを行う必要がある。また、放射能の測定値についても、安全性を証明するために、測定値の評価を分かりやすくする必要がある。突然、「このポイントで測ったら放射能の値がこんなに高かった」とあとから発表するケースも少なくない。
放射能の拡散は、風向きやその時の気象条件によって変わるし、ある地域については細かく測定する必要もある。測定値の単位についても統一して説明すべきだ。またこれだけの非常事態なのに適切に情報を公開していない点も大きな問題だ。とくに海外から厳しい受け止められ方をしていることを理解しておく必要がある。
電力系統を統合的に制御するスマートグリッド
──従来から電力効率の視点で注目されていた「スマートグリッド」ですが、震災以降の電力問題ではどのような役割を担っていくと思いますか?
今後の日本の電気事情を考えると、まず、夏に向けて電力使用はこれまで以上にピークカットが求められる。また、太陽光発電や風力発電など不安定な発電も電力系統に含めなければならない。さらに今後、新しい発電方法も実用化される可能性もある。これらを統合的に制御するためにスマートグリッドは有効だろう。
今後は電力ビジネスがこれまでの需要家-供給者という単純な図式から多様化していくため、コーディネーター(仲介役)が求められる。その役割を果たすのがICTだ。日本の電力会社は、「すでにスマートグリッドは実現している」と言うが、今後は需要家を含め統合的に電力を制御する必要があり、その意味でICT産業には可能性があるとみている。
【次ページ】加速するか?クラウドとデータセンター活用
関連タグ