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ますます注目が集まっている「クラウド」だが、導入に踏み切る企業はまだ限られている状況だろう。クラウドを導入検討するうえで、企業は何が必要になるのか、どういう考え方で進めればよいのか。企業のクラウド導入が本格化しようとする今、何が課題となるのだろうか。さまざまなメディア・講演を通じてクラウドに関する情報を発信している早稲田大学大学院 客員教授 丸山不二夫氏に話を伺った。
ここ1、2年のテーマはハイブリッドクラウドへの移行
──ここ数年、クラウドが大きな注目を浴びている背景をどう見ていますか。
「クラウド」はインターネット利用の新しい形態であり、ネットワークを通じてサービスを提供するものと考えることができます。これが注目されている背景には、インターネットを使うコンシューマが爆発的に増加し、それを抜きにビジネスが成り立たなくなってきたことがあります。インフラ面では、マシン性能が上がってコストが低下したことで膨大なサーバを集約することが可能になり、クライアント側も安価な端末を手軽に入手できるようになったことが大きいでしょう。
──クラウドとコスト削減に関して、クラウドが本当にコスト削減につながるのかという疑念を抱く経営層も少なくないようですが。
コンピュータ・システムのコストパフォーマンスは、1.5年で4倍になります。3年だと16倍です。現実には、思ったようにハードウェアが安くならないケースもありますが、それでも3年でコストパフォーマンスは10倍にはなるでしょう。逆に言うと、いま導入したシステムの価値は3年後には1/10に下がるということです。3年後に価値が1/10になる株や不動産を買う経営者はいないでしょう。それでもシステムを購入していたのは、基本的には、それ以外に選択肢がなかったからです。しかし、いまはクラウドという選択肢があります。
──プライベートクラウドとパブリッククラウドはそれぞれ、今後どのような形で展開していくとお考えでしょうか。
一気にパブリッククラウドに移行するというのは現実的ではないので、おそらくサービスとし明確に切り出せる周辺部分から、順次、移行していくと思います。プライベートクラウドについては、所有し続けるわけですから「所有から利用へ」というクラウドの大きなメリットはあまり生かせないことには留意が必要です。ただ、システムのコストは急速に低下しますので、クラウドのサービスを使い続けるより、システムを購入する方が安くつくといったことが起こりえます。システムを所有することにも、セキュリティやきめ細かいサービスを迅速に提供できるというメリットはあります。両者のメリットをよく比較して選択することが重要です。ここ1、2年は、パブリックとプライベートを組み合わせたハイブリッドクラウドへの移行が大きなテーマになると思います。
クラウドの導入には経営層の関与が不可欠
──クラウド導入で企業の情報システム部門が気を付ける点は何でしょうか。
クラウドの導入は情報システム部門ではなく経営層が決めるべきことだと思います。クラウド導入によるコスト削減は、経営層が判断すべきことです。ただ、経営層が、IT部門を、単なるコスト部門として考えてコストカットのためだけにクラウド導入を進めるなら、それは間違いだと思います。重要なことは、クラウドを利用して新しいビジネスやサービスを生み出し、企業の生産性を高め、会社を活性化することです。それは技術の問題ではありません。企業がどういうビジネスを展開していくのかを考え、その結果としてクラウドが導入されるのがいいのです。そのために経営に携わるものがクラウドの採用を考えるべきです。
──クラウドに適した業種・業界はありますか。
当然、Web企業系は親和性が高いでしょう。ただ、それ以外の基幹系と呼ばれる分野、たとえば銀行であっても、ほとんどすべての銀行はオンラインのサービスを提供していますし、証券会社ならネットワークがないとビジネスになりません。重要なことは、どんな企業であれ、ビジネスの規模が大きくなると新しいネットワーク技術を導入しないと対応できなくなるということです。かつてメインフレームがオープン化・ネットワーク化の波にさらされたときと同様です。
もう1つは顧客との結びつきです。結局、企業というものは、その商品やサービスを利用してくれる人が払うお金で成り立っていますから、顧客・コンシューマとの結びつきが極めて重要なのです。規模拡大の問題と顧客との結びつきの重要性については、おそらくどの企業も同様の構造を持っています。クラウドの利用が、こうした問題にこたえる、一つの有力な解であることは間違いありません。
【次ページ】クラウド以前(ビフォークラウド)と以後(アフタークラウド)でトラフィックは劇的に変わる
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