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  • 2010/05/28 掲載

【市場志向型経営の構図 最終回】今なぜ市場志向型経営なのか

武蔵大学経済学部 准教授 黒岩健一郎氏

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「製品志向から販売志向、そして市場志向へ」。この流れに沿って、市場志向型経営が求められるようになったことはすでに述べた。最終回である今回は、現在の経営環境において、市場志向型経営の重要性が一層増していることを説明して、連載を終わることにしよう。

異業種間の競争

 新聞の発行部数の減少傾向が続いている。一般紙もスポーツ紙もその傾向は変わらない。その理由は、すぐに思い当たるだろう。インターネットの普及である。テレビとYahooのニュースで済ませている人が増えている。

 減少の理由はそれだけだろうか。通勤電車に乗っていると、新聞を細長く折りたたんで読んでいる人を見ることは少なくなった。それに代わるようにして、携帯電話を眺めている人が非常に増えた。携帯電話の液晶画面を見つめながら、携帯メールを読んだり送ったり、ワンセグを見ている人もいる。実は、新聞社と携帯電話会社は競合関係にある。携帯電話だけではない。携帯ゲーム機でゲームをしている人も多い。新聞社は、任天堂のようなゲーム業界とも戦っているのかもしれない。

 このように、同業種間の競争よりも異業種間の競争が顕著になっている。思いがけない企業と同じニーズを食い合っている場合が増えてきているのである。

 また、ビジネスモデルの違いから、複雑な競争をしている業界もある。例えば、デジタルカメラ業界では、それぞれの企業のビジネスモデルがかなり違う。キヤノンは、デジカメに撮影した映像をプリンターですぐにプリントできる機能を備えている。プリンターおよびトナーが売れれば、収益は上がる構造になっている。ソニーは、メモリースティックによって、パソコンなどの他の機器とのデータのやり取りが容易にできるようにしている。すべてソニー製品を買い揃えてもらおうとしているのである。さらに、富士フイルムは、アルバムやポストカードなど、フジカラーのお店を利用する顧客を増加するような売り方をしている。

 このような複雑な経営環境に置かれる企業は、顧客の視点でバリューチェーンを見直すことが求められる。顧客は何を欲しているのか、何に対してお金を払っているのか、これを基点として、市場を注意深く観察していかなければならない。製品や販売に注目していると、誰と戦っているのかさえわからなくなってしまう。市場情報を上手く処理できる企業が成果を得ることになるのである。
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