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- 2010/04/22 掲載
【連載】デフレ経済を勝ち抜く攻めのM&A(3)投資主体によって異なる、M&A実施後の出資先の扱い
三菱商事のローソンへの資本参加、山崎製パンによる東ハト買収…
商社、事業会社、投資ファンドなどから資本を受け入れる場合、これらの投資主体(=買い手)の目的は「M&A実施後にターゲットの企業価値を向上させたい」という点では共通していても、最終的に求めるもの(本業への貢献、投資リターンなど)の優先順位が異なるため、結果的にM&A実施後の出資先の扱いに差が出ることがある。したがって、自社にとって最適な投資主体を選ぶためには、この差異を理解しておく必要がある。
連載3回目となる今回は、商社、事業会社、投資ファンドによるM&A事例について、特にM&A実施後の出資先の扱いに焦点を当ててご紹介したい。
商社の例: 三菱商事のローソンへの資本参加
2000年1月、三菱商事はコンビニエンスストア大手ローソンの株式20%を、親会社のダイエーから1,700億円で取得し、翌2001年2月には、同社への出資比率を29.8%に高め、筆頭株主となった。筆頭株主になると、三菱商事グループはローソンに関連する食品卸・酒類卸・食材卸・物流分野でのM&Aを進め、ローソン支援網を整備した。まず2001年11月、子会社で食品卸大手の菱食を通じ、食品・酒類卸の祭原を43.5億円で100%子会社化し、ローソンへの供給体制を強化した。翌2002年7月、物流の再構築によるローソンの収益力強化を狙い、ダイエーの物流子会社ダイエー・ロジスティクス・システムズから、ローソン向け物流事業を56億円で取得した。
2003年5月には、食品卸のナックスナカムラから、コンビニのおにぎりや弁当・総菜を製造するメーカー向けの食材卸事業を譲り受け、ローソンの主力商品である米飯・総菜部門の収益力向上を狙った(金額は非公表)。さらに2005年5月、北陸地区のローソン指定ベンダーである食品卸のカナカンとの関係強化を狙い、3.61%の資本参加を行っている。
ローソン本体も、三菱商事グループ入りで強化された財務体力を背景に、プラットフォーム拡充のため積極的なM&Aを行った。まず、2004年10月に、東北スパーから約90店舗を20億円で譲り受けた。また、2007年3月から生鮮コンビニ運営の九九プラスへの出資を開始し、2008年8月に出資比率を77.7%に高める過程で、総額約110億円を投資した。その後2009年5月には、九九プラスに「ローソンストア100」を運営するバリューローソンを吸収合併させ、ブランドをローソンストア100に統一した。
人材面では、2002年3月に三菱商事の新浪剛氏を社長に抜擢した。新浪氏は、ソデックスコーポレーション(現ソデッソジャパン)を実質創業し、病院給食分野の開拓により百億円規模の会社に育てた後、ローソン株取得の事務局としてダイエーとの交渉で実績を上げていた。
実は、三菱商事は、2001年2月に筆頭株主になった後も、「商社が商品を押し込むためにローソンを利用する」という不本意な印象を恐れ、役員派遣を最大5人(全20人中)に止めてきた経緯がある。しかし、2002年2月期、既存店売上高が10ヶ月連続で前年割れし、人件費などコスト圧縮も進まず、営業減益が確定的になると、取締役を20人から6人に減らし、藤原社長以外のダイエー出身取締役11人を全員退陣させ、新浪社長を投入するという大胆な人事改革を行った。
本事例は、投資主体である商社が、川上川下の広範なネットワーク、資金力および経営人材を提供する一方、出資先の独立性を一定程度保ちつつ育成するという、商社による出資先の扱いのひとつの典型例と言える。筆頭株主になった後も、社長の交代を1年待ったあたりに、出資先との独特の距離感がにじみ出ている。
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