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- 2009/10/19 掲載
金融機関のITコスト構造を改革する「ITコストのデザイン」と「新技術の活用」--アクセンチュア 宮良浩二氏(2/2)
──デスクトップPCをはじめ、社内向けサーバなど、ハードウェア保守などの固定費はどのように見直すべきでしょうか?
まず、ハードウェア資産自体の適正化に取り組む必要があります。ITコスト削減関連のプロジェクトを実施する場合、少なからず未稼働なハードウェア資産があります。資産があるから保守が必要になるので、この部分は思い切って捨てるべきです。さらに踏み込んでサーバやストレージの統合や仮想化といった取り組みによってハードウェア資産自体を適正化するのが基本的な取り組みになります。
こうした、いわば王道といえる取り組みに加え、検討に値する取組み2つお伝えします。
ハードウェア資産の適正化は、調達の段階や利用期間中のモニタリングなど非常に負荷がかかります。しかし、最新の技術・ツールを使えば、ネットワークに機器を接続することで、どのようなハードウェア資産があり、稼動しているかなどの情報を収集できます。我々のあるプロジェクトでは、クライアント企業が保有していた資産管理台帳と、ツールを使って棚卸しした実態との間に大きな乖離があり、それを見直すことで、無駄を発見できたという例があります。このような技術の採用も考慮に値するでしょう。
次に、保守費の位置づけを変えることです。保守料というのは保険なので、保険の見直しをすればよいということです。リスクをとれる領域については障害が発生したつどコストを負担するという発想転換も必要です。つまり、一括バンドル契約でなく、発生時に支払うというスキームも検討すべきということです。
──従来型のITコストの削減から脱却するために、ITコストをどのようにデザインすべきか、そのポイントについてお教えください。
ITコストの削減はIT部門の仕事だと考えている経営の方も少なくありません。ちなみに、アクセンチュアが携わった金融機関における事例では、ITコスト削減に取り組む場合、IT部門のみで実施できる「効率化」に限ると5~15%程度ですが、ビジネス部門を巻き込んだ「要件の適正化」や経営を巻き込んだ「ビジネスの見直し」まで踏み込むと、8%~25%以上の効果にまで達しています。
そのため、私は「経営」部門、「ビジネス」部門、「IT」部門の3つのセクションが三位一体で取り組むことを推奨しています。「システムにお金がかかって困る」という経営者の声も聞きますが、実は経営やビジネス部門がITコスト削減を阻んでいることがあるのです。
各セクションごとにみていくと、まず「経営」には短期・中期経営目標達成に必要なITコストの枠・配分を意思決定することを求めたいと思います。これは、財務諸表を組み合わせることで、経営戦略・施策に基づいた配分の検討や意思決定に責任を持つ必要があるということです。また個別案件で、明快な事由に基づいた案件の採択や意思決定をしなければなりません。ところが、現実を見ると選択肢(オプション)のない稟議書で意思決定が進んでいるケースも多く、これは選択肢の提示を求めない経営側の責任です。
次に、ビジネス部門には「適切実装」を求めたいと思います。ビジネス目標達成に必要かつ適切なシステムの実装水準を確定するのはビジネス部門の役割です。20~30%程度の便乗要求仕様はよくある話ですが、特に先を見据えた初期投資の適正化に真摯に取り組むべきでしょう。その際、ビジネス部門は、責任を持って起案し、ビジネス目標達成をコミットしなければなりません。ROI達成状況のモニタリング、それ以降の案件採択の結果反映分の検討などの意思決定に責任を持つ必要があります。
最後にIT部門には継続的なコスト削減活動への昇華を求めたいと思います。適切な実装水準・形態の検討やQCD遵守はシステム部門の責任です。同じ要求仕様であっても実装方法やプロジェクト運営の成否でコストが大きく変わる例は稀ではありません。また、ランニングコストの恒常的な低減活動を継続していく責任を持つべきです。先ほども述べた固定的IT支出の削減はIT部門の生産性を問われるテーマの1つです。
さらにいうと、IT部門の方には「経営のど真ん中で戦っていただきたい」という思いもあります。ITの価値を上げるには経営とビジネス部門との協働が欠かせませんが、経営が決めるべきこと、ビジネス部門が決めるべきことを明確に決め、その実行を迫る強いIT部門である必要があります。
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おっしゃるとおり、金融機関においてはシステムの安定・安全志向が強いのが実情ですが、その結果、価格の高いメインフレームによる個別の作りこみを続けており、サーバが大量に増えて運用コストが肥大化したという悩ましい課題に直面しています。
こうした問題に対して、新しい技術がこれまでと異なるコスト削減のアプローチを可能にしています。新たな情報技術の活用はシステム部門だけが研究するテーマではありません。現在のITコスト水準を抜本的に下げることのできる現実的なツールであり、経営テーマとなっています。そのため、まず部分的にはじめて、段階的に理想像に近づけていくという考え方で進めるのが現実的でしょう。
まず、オープンソース・ソフトウェアは、商用ソフトウェアと比べて機能面や拡張性でやや劣るものの、価格面で圧倒的なメリットが存在します。実際に多くの企業がオープンソース・ソフトウェアの活用を開始しており、たとえば、商用UNIX、ミドルウェアで構築されているWebアプリケーションをLinux /JBoss /Postgreなどのオープンソースで置き換えることにより大幅なコスト削減を達成しています。プラットフォームの移行であっても、現行ハードウェアベンダによる買い取りや保守の長期アウトソーシング契約などと組み合わせると、1年目からコスト削減効果を享受できます。
また、80年代はシステムの多くがカスタム開発によるBuild全盛の時代でしたが、90年代に入りERPなどのパッケージが登場しBuyの時代が到来しました。そして今、ネットワークの発展と仮想化技術に後押しされて、ネット上にあるITサービスを利用するクラウド・コンピューティングの時代、Useの時代という新しいオプションが登場しています。従来のように多額のお金をかけて要件定義をして実装に入るのではなく、小さく始めて育てることが可能になります。オフィスツールや差別化領域とならないシステムの更改ではクラウド活用によるコスト削減は考察に値します。クラウドの本質はITを共有することにあるので、単一事業体を超えて、グループ、業界で取り組むことも視野に入れるべきでしょう。
──ありがとうございました。
執筆:丸山隆平 経済ジャーナリスト 1972年日刊工業新聞社入社、以降88年まで第一線の経済・産業記者として活躍。経団連、NTT、通産省、郵政省、労働省、東京商工会議所 各記者クラブ所属、米国特派員を経験。情報通信、コンピューター・ソフトウエア産業草創期から取材。コンピューター・OA、情報通信、経営問題関連の執筆・著作多数。1989年から投資家向け広報(IR)コンサルタントとして内外の企業IR・PRをサポート。現在、フリーの経済ジャーナリストとして東京IT新聞外部記者も努める。 |
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