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- 2009/09/03 掲載
固定費と変動費、コスト削減の考え方:CIOへのステップアップ財務・戦略講座(1)
キャノンMJと東京製鉄から読み解く
社長になったつもりで会社をみる
大きな会社の全体を把握することは容易なことではありません。筆者もアナリストとしてどうやって企業全体を見渡すべきか、一時期悩んだ経験があります。そのとき、ある方からこんなアドバイスをいただきました。「自分が社長になったつもりで会社をみることができれば、何が大事で何が大事でないかわかる」と。言うまでもなく、企業全体を把握しているのは社長です、そして、自分が社長になったつもりで考えてみること、これが会社全体を把握することが全体把握の近道です。これから自分が社長になったつもりでそれぞれのテーマについて考えてみましょう。第1回目のテーマは、コスト削減の考え方を扱います。これにあたって、まず、コストとは何かを考えてみましょう。「コストを削減すべし」「できるだけコストを使わないように」と会社には「コスト」という言葉が溢れています。日常的によく使う「コスト」ですが、会社の何にどう反映されるのでしょうか。
会社がどれだけコストを使ったのかを把握するには2つの方法があります。ひとつは、企業内部で集計している会計データを把握することです。 ただし、誰もが企業内部で集計しているデータにアクセスできるというわけではありません。一方、もう1つのアプローチが、公開されているデータを活用する方法です。株式公開している上場企業の場合、4半期(3カ月)ごとの決算報告が義務付けられているので、その企業のホームページあるいはEDINET(金融庁による電子開示システム)にアクセスすれば誰でも参照することができます。
後者の、公開されている会計情報は、株式などに投資する第三者がいろいろな企業を比較するために一定の基準に従って集計されたもので、こうした会計方式(集計の方式)を「財務会計」と呼びます。前者も財務会計を作成する目的もありますが、経営情報の把握などのために会社独自の基準で集計することがあり、こうした会計方式を「管理会計」と呼びます。
財務会計データは、決められたフォーマットに従った公開データであるので、日常的に発生する細々とした経理情報であったり、経営判断に利用する管理会計データに比較すれば、当然粒度は落ちます。ただし、同じ業界の企業を比較することによって、自社が本当にコスト削減できているのか、その判断が可能です。そこで本稿では財務会計に基づく財務諸表をもとに話を進めていきましょう。
現在の商法(正確には会社法)で定められている財務諸表には、損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、キャッシュフロー計算書(C/F)、株主資本等変動計算書(S/S)が含まれます。その中で、収入・支出が記載されているのが、損益計算書(P/L)です。
では、この損益計算書の流れを見てみましょう。図表1に示すように、サービス・製品を販売による企業活動で得た売上高はすべて利益になるわけではありません。そこから、直接経費である売上原価、間接経費である販管費(正式名称は販売費及び一般管理費)、すなわちコストを引いたものが利益(営業利益)となります。図表1では、営業利益以降、様々な項目がありますが、大きく分けて(1)本業以外の収入・費用(営業外収益、営業外費用)、(2)一過性の収入・費用(特別利益、損失)、(3)法人税、と、徐々に本業の企業活動とは離れます。この点で、企業活動におけるコスト削減というのは、売上原価・販管費を減らして、いかに営業利益を増やすがポイントになります。
売上原価・販管費について具体的を見てみましょう。図表2では、キャノンマーケティング・ジャパン(キャノンMJ)と東京製鉄の例をあげます。キャノンMJは、キャノンのデジカメ、複写機などの国内販売を手掛ける会社で、製品は製造していません。したがって、売上高に占める製造原価の割合が低く、その反対にセールスマン、サポート・スタッフの給料、営業費用といった販管費の割合が高くなります。この点では販管費をどれだけ削減するかがポイントになるでしょう。一方、東京製鉄は、電炉メーカーとして鉄くずから建材用鋼材を提供している会社です。顧客はある程度固定ですので、販管費の割合は低く、売上原価の割合が高くなります。
この例から読み取れることは、一言にコスト削減といっても、その企業が属している業界によってアプローチがまったく違ってくるということです。経営学者のマイケル・E・ポーターは「競争の戦略」の冒頭でこう述べています。「競争戦略をつくる際の決め手は、会社をその環境との関係で見ることである」と。冒頭で指摘した“社長目線で考える“ことの重要性は、自社とその環境を多角的に見ることとも言えるでしょう。
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