東京大学大学院技術経営戦略学教授 経済産業研究所 ファカルティフェロー 元橋一之氏
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東京大学工学系研究科技術経営戦略学教授の元橋一之氏は、マクロ/ミクロの両面から見たIT投資と経済成長の関係やITと経営の親和性に関する国際比較分析などを行っている。それらの研究成果から、主に米国との比較データに基づいた日本企業におけるIT活用の傾向や問題点、今後目指すべきIT経営のあり方などについてお話を伺った。
ITによる生産性向上で米国に遅れをとる日本
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東京大学大学院技術経営戦略学教授
経済産業研究所 ファカルティフェロー
元橋一之氏
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ITの黎明期から今日に至るまで「IT先進国」と称されてきた米国と比べて、日本では企業におけるIT活用が遅れていると言われている。その違いはどこにあるのだろうか?
元橋氏の調査結果によると、マクロレベルで見た日本のIT投資水準そのものは、米国と比較しても遜色ないものだという。一方で、両国の違いが顕著に表れたのが、経済成長の大きな要因である「生産性」に対してITが与えるインパクトだ。
「経済成長の主な要因としては、労働、資本、生産性の3つがあり、特に先進国の経済成長を大きく左右するのが生産性です。この生産性とITとの関係を比較分析したのですが、日本の場合はTFP(全要素生産性:Total Factor Productivity)に対するITの寄与度が米国の半分程度しかないことが分かりました」(元橋氏)
つまり、同じレベルでIT投資を行っていたとしても、それを生産性向上という効果に結びつける力が日本は米国よりも弱いということになる。こうした結果を踏まえ、元橋氏はさらにITをどのように経営に活かしているのかという点に着目してそれを企業レベルで分析するために、2007年2月、経済産業研究所で日本・米国・韓国の企業を対象とした国際比較のアンケート調査を実施した。
その結果、明らかになったことの1つが、ITシステム導入において重視されている目的が日米の企業で大きく異なっているということである。
日本は基幹系システム、米国は情報系システムに注力
「日本の企業が主に投資しているのは『基幹系システム』です。これはミッションクリティカル系システムとも呼ばれており、ごく簡単に言えば日々の定常的な業務を効率化し、安定的に進めるためのシステムということになります。調査対象が上場企業・大企業だったこともあり、比較的古くからIT投資を行っていた企業が多く、この基幹系システムの導入はかなり進んでいることが分かりました。
一方、日本企業で導入が遅れているのが、基幹系システムに蓄積された社内データや社外から収集したデータを分析してマーケティングや経営判断などに活用する『情報系システム』です。こちらはオペレーショナルな業務ではなく、売上拡大や新規ビジネス開拓のために使うシステムであり、まさに『攻め』のIT経営といえるでしょう。米国企業はこの情報系システムへの投資が非常に活発で、広く導入が進んでいます。」(元橋氏)
企業がITシステムを導入する目的として、かつての業務効率化やコスト削減だけでなく、データ分析による意思決定支援や競争力強化がより重要になってきたと言われるが、この調査結果からは、日本企業の多くが依然として旧来型のIT活用に留まっていることが分かる。その点が「攻め」のIT経営に積極的に取り組んでいる企業の多い米国との大きな違いであり、ITの生産性に対する貢献度に差が生じている理由といえるだろう。
米国と日本では企業文化や組織構造が異なり、日本企業でなかなか情報系システムの導入が進まない要因もそこから見て取れる。よく言われる違いが、日本企業では意思決定のプロセスがボトムアップ型であるのに対して、米国企業はトップダウン型であるという点だ。また、それに関連してITシステム導入のキーパーソンとなるCIOの立場にも違いがある。元橋氏によると、日本企業の場合は総務や財務系の役員が兼任でCIOを務めるケースが多いのに対し、米国企業のCIOは基本的に専任であり、外部からITシステムのエキスパートをCIOとして迎え入れることも多いのだという。
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