- 2007/11/02 掲載
【特別寄稿】安全管理と危機管理を徹底せよ
チェック&バランス体制の下
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青柳武彦(あおやぎたけひこ) 国際大学グローコム客員教授。1934年、群馬県桐生市生まれ。東京大学経済学部卒。伊藤忠商事に入社後、伊藤忠システム開発取締役、日本テレマティーク社長、会長などを歴任。95年より06年まで国際大学グローコム教授(情報社会学、情報法)。著書に『個人情報「過」保護が日本を破壊する(ソフトバンク クリエイティブ)』など多数。 |
安全管理に求められる考え方
安全管理と危機管理は両方ともしっかりとやらなければならないにもかかわらず、まったく異なる手法が必要であることを認識してもらいたい。安全管理においては対策に万全を尽くし、事故が起こる確率を限りなくゼロに近づけるように努めるべきである。
ところが、安全管理には成果よりもプロセスを重視しがち、という重大な陥穽がある。プロセスを重視するあまり、一所懸命に努力をしさえすれば事故が防げると勘違いしてしまいがちなことだ。上司への報告も、ヒエラルヒーの階段を上がるたびに期待値が高まって美化が進行する。トップに到達するまでには「全員が必死の努力をしているので、事故は防げるでしょう」という結論になってしまう。しかも関係者全員がそれを本気で信じ込んでしまうのだ。
危機管理に求められる考え方
対照的に、危機管理においては、「どんなに対策に万全を期しても、人間がやる限り確率はゼロにはならない」と考える。確率は無視して、それが起きた時の被害の重大さに着目して対策を立てるのだ。経営者は、危機管理を行うために「1人1人が自分のなすべきことをしっかりやれば事故は防げる」という、美しいが虚構に過ぎない考え方をきっぱりと捨て去ることが必要だ。
危機管理計画を策定するために、全員が叡智を振り絞ってあらゆる種類の危機を想定し、これをモデル化して対策を標準化する。「想定外」のことがあってはならないのである。1999年に東海村JCOでおきた臨界事故の折には、危機管理計画がまったくなく、JCO、自治体、科学技術庁などの関係者は周章狼狽し、その結果5時間もの間、多くの人命を危機にさらすことになった。放射能の漏えい事故などは絶対にあってはならないという安全管理的な観点による理由で、そうした事故は「想定外」だったのだ。残念なことにその経験は生かされておらず、柏崎刈羽原発においても火災発生は「想定外」であり、したがって危機管理計画は存在していなかった。
安全管理も危機管理も、チェック&バランス体制の下で策定しないと穴ができる。チェック&バランスは、もともとは政治力学におけるリスク分散の手法である。三権分立のように、常に対抗あるいは競合する複数の勢力を確保して、これを相互に競合および監視せしめることによって自発的な向上を確保するのである。自然に自発的な改善と均衡が実現されるので調和の取れた円満な進歩が可能になるという考え方だ。
これは、従来から行われているライン・スタッフ体制とはまったく異なる。スタッフはあくまでも自己の専門性を生かしてラインに助言して支援する。結果責任はすべてラインにある。しかし、チェック&バランス体制におけるチェック側の目的は、推進側を支援することではなく、より高い立場から企業目的を達成することだ。時には推進側を批判したり、行動を禁止したりすることさえある。そのため、完全な独立性と十分な権限が与えられていなければならない。ところが、日本の経営風土の中では、このチェック&バランス体制を取ることが困難なのだ。
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