- 2007/08/23 掲載
「セカンドライフ」と既存メディアの違い(2/2)
デジタルハリウッド大学院三淵啓自教授にインタビュー
三淵■日本で仮想世界が…という考え方ではなく、仮想世界は人類の新しいコミュニケーションツールで、かつ、ひとつのコンテンツに成長していくと思っています。例えば、テレビや電話など新しいメディアが出現した際も、「普及しますか」と尋ねられたはずですよね。特殊な世界ではなく、一般的なものに成長すると思っています。
――SNSやテレビなど他のコンテンツと人々の余暇の時間を奪い合うことにはなりませんか?
三淵■私は、まるっきり違うコンテンツだと思っています。
まず、Webとセカンドライフを比較してみましょう。私は、Webとは、概念的なもの、言葉や言語でカテゴリー化された左脳的な情報空間だと思っています。便利で探しやすい検索エンジンなどが代表例でしょう。
一方、セカンドライフの中は、混沌とした整理されていない空間ですね。直感的、すなわち右脳的な空間だと思っています。セカンドライフを「Webの進化形」、「3次元になったWeb」と呼ぶ人がいますが、実は感覚的にまったく違います。
人間は、言語を見つけた時点から、文化や科学について、すべて言葉で互いにコミュニケーションし、理論を積み重ねてきた経緯がありました。例えば、「グランドキャニオンが大きい」といった場合。ある人は「奈良の大仏」の大きさを想像したかもしれない。同じ「大きい」といってもそれぞれイメージが違うのに、情報が欠落したままコミュニケーションし、それが文化を作り上げました。
ところが、セカンドライフでは、その場に連れて行き見せることができるし、オブジェクトもポンと出てくる。実際に共有した空間、ものでコミュニケーションが行われる。今までこういったインフラはなかったんです。
私は、新しいコミュニケーションツールができるということは、新しいビジネスチャンスが生まれると思っています。Webの延長線で考える戦略が多いんですけど、まったく違うものとしての理解が必要です。逆に言うとWebでできなかったことが、セカンドライフでできると考える必要があります。
三淵■テレビとWebは、似たところがあります。情報が一方的に配信され、それを受ける側は一人のことが多い。テレビも黎明期で台数が少ないときには、村で集まってみていた。プロレスなどが人気だったのは有名な話ですね。皆で集まって視聴することで、情報を受け取る側は、周囲と共感し、プラスアルファの臨場感を感じることができた。今も、スポーツの国際試合のときは、パブで盛り上がったりしますね。一人で見るのとは、気分が違います。
セカンドライフではそれを仮想空間でできるんです。今までにないけれども、実は昔あったメディアの要素も含んでいるわけです。コストをかけずに忙しい人たちも参加できます。
実は、人間は整理された秩序に対して逆行する欲求も持っています。現代社会では、森林浴などが癒しとしてブームですよね。自然とは混沌とした秩序や美なんです。あるがままで成長していく中に身をおくことで人間は安心感を得られる。今や、都市は、見せようとする広告などにあふれ混沌とした世界が失われつつあります。
セカンドライフの中は、個人個人が勝手気ままに好きなものを作っている。逆に人間が作り出したものであるけれども、混沌が存在する。そこがセカンドライフの面白さではないかと思っています。
――このセカンドライフの特徴をどのように生かせばよいですか。
三淵■教育などに応用できると思っています。通信教育は個人でやっていても面白くないですよね。色々な人が一緒に参加することによって、毎回の雰囲気が変わります。いつも、決まった流れにならないというところが面白さにつながります。
●三淵啓自(みつぶち・けいじ)
1961年生まれ。スタンフォード大学コンピューター数学科にて修士号取得後、米国オムロン社サンタクララ研究所にて人口知能や画像認識の研究に携わる。その後、米国ベンチャー会社設立を経て(株)日本 ウェブコンセプツ、米国法人3U.com 社を設立。2004年からデジタルハリウッド大学大学院の大学院専任教授に就任。2005年7月デジタルハリウッド大学院「メディアサイエンス研究所」NCG研究室長に就任し文部科学省の調整費プロジェクトに従事、2006年10月、セカンドライフ研究室を設立。室長に就任。 主な著書:『セカンドライフの歩き方 バーチャルガイドブック』(ASCII出版)
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