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- 2024/04/08 掲載
なぜ、好調「新小売」を売却?アリババが“創業メンバー回帰”で目論む「次の進化」
アリババが創業者ジャック・マー“肝いり事業”を売却か
アリババが新小売戦略を放棄する見込みだ。新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)、新小売百貨店「銀泰百貨」(Intime)、スーパーマーケット「大潤発」(RTマート)の3つの事業を売却するという観測が報道されている。その根拠になっているのは、アリババがこの3事業の株式をグループ内の資産運用会社に移管したことだ。これは、株券を金庫から財布に移したということであり、売却の準備行動ではないかと見られている。
さらに、2023年9月期の四半期報告書に付随する電話会議で、蔡崇信(ジョセフ・ツァイ)会長がこの件について発言をした。株主に対してどのような利益還元策を考えているかという質問に対して、4つの還元策を答え、そのうちの1つが次のようなものだった。
「非コア事業資産を現金化します。資本の結びつきはあるものの、低成長しかしていない事業があります。これらは、私たちのコア事業ではなく、戦略的な事業でもありません。株主の皆さまに還元ができるように、このような事業を現金化する創造的な方法を評価している最中です」
この非コア事業資産が新小売系事業だと考えられ、アリババが新小売戦略を放棄することはほぼ確定的と見られるようになっている。
しかし、新小売戦略は2016年に創業者の馬雲(ジャック・マー)氏の肝いりで始まった小売戦略であり、華々しい成果も出している。それをなぜ放棄するのか。それはアリババの戦略が大きく変わったことを意味している。
主力事業ECの頭打ちを救った「フーマフレッシュ」
2015年、中国の労働力人口が減少に転じた。労働力人口は主要な消費者であるため、労働力と個人消費が減少の時代に入ることを意味している。同時に、アリババの主力事業であるECも頭打ちになっていた。2021年にはアクティブな利用者(年に1回以上購入した利用者数)は8.11億人となり、利用者をこれ以上増やすことは難しくなった。販売マーケティング費用を利用者数増加分で割った「新規顧客獲得コスト」は急上昇し、2015年までは1人あたり100元以下だったが、2021年には960元にまで上昇している。
そこでジャック・マー氏は、2016年にアリババ主催の開発者会議で、「純粋なECはすでに死んでいる。オンライン小売はオフライン小売と深く融合し、すべての小売業は新小売となる」と語って、強力に新小売戦略を進めることを宣言した。
その象徴的な事業がフーマフレッシュだった。フーマフレッシュは単なるオンライン注文、宅配をするスーパーではなく、注文方法では「オンライン/店頭」、受け取り方法では「30分宅配/店頭」を用意し、それを自由に組み合わせることによりユーザー体験の改革を狙ったものだ。
フーマはこの改革を「人找貨から貨找人へ」という言葉で表現している。
一般的な店頭小売は人找貨(=人が商品を訪ねる)で、この形態では消費者が「湯豆腐が食べたい」と欲求が生まれた後、店頭に行かなければならない。それが面倒で、自宅にあるカップ麺を食べる人もいれば、より近いコンビニで買う人もいる。欲求から購入までのコンバージョンに課題がある。一方、いつでもどこでもスマートフォンで注文ができ、30分で宅配をしてくれるフーマは貨找人(=商品が人を訪ねる)なので、欲求が生まれてからタイムラグなしに購入に結びつけられる。
これにより、フーマは坪効率(売り場面積あたりの売上)が標準的なスーパーの4倍以上という大成功を収めた。
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