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- 2023/11/07 掲載
中国で制度化進む「従業員シェア」とは?日本の「在籍型出向」と何が違う?人手不足の解消策
中国の「従業員シェア」、日本の「在籍型出向」との違いは?
新型コロナの感染拡大で生まれた新しい雇用形態「従業員シェアリング」が、中国各地で制度化への試みが始まっている。日本でも「在籍型出向」という名称で、厚生労働省がさまざまな啓蒙活動、支援政策を進めている。従業員シェアリングとは、人手が余っている企業が、人手が足りない企業へ、従業員を一定期間貸し出す制度だ。働き手の偏りを調整するために行われる。
中国の「従業員シェアリング」と日本の「在籍型出向」では、考え方や目的に違いがあるようだ。中国では人手不足対策のために、遊休人材を効率的に活用しながら安定雇用を増やすことが目的とされているが、日本の場合は「労働者の働き方改革の1つ=自由度の高い働き方」として受け止められているようだ。
きっかけはアリババ、コロナ禍で生まれた「従業員シェアリング」
中国で「従業員シェアリング」という考え方が生まれたのは、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大だった。アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)は、1月25日から始まる春節休みに備え、従業員のシフトを通常の7割程度まで落としていた。都市型スーパーであるため、都市住民は旅行に行ったり、帰省をしたりするため、需要が大きく下がる。
ところが、2020年の春節休みはまったく違った。新型コロナの感染拡大により、飲食店や百貨店は休業し、市民は旅行や帰省を控え、外出を自粛した。そのため、生鮮食料品をスマートフォンで注文して30分で宅配してくれるフーマフレッシュに注文が殺到した。人手が足りないのはもちろん、仕入れも追いつかなくなり、30分配送を維持できず、翌日配送に一時的に切り替えた店舗も多かった。
このような中でフーマフレッシュは休業を決めた飲食チェーン「雲海肴」に対して、人件費を肩代わりすることを条件に、自宅待機になっている従業員を貸し出してもらえないかという交渉を始めた。これは、従業員を自宅待機させても給料は支払い続けなければならなかった雲海肴にとってもありがたい話だった。
また、従業員にとっても、メリットのある話だった。所属企業の飲食チェーンは営業ができないのだから、休業が長引けば倒産してしまう不安もある。その中で、シェアリングとは言え、職が確保できるのは安心できることだった。
ウォルマートやレノボなど、続々とアリババに追随
フーマフレッシュが2020年2月3日に、この従業員シェアリング制度を始めたことをSNS「微博」(ウェイボー)で公開すると、休業を決めているホテル、映画館、百貨店、ショッピングモールなどからも申し出があり、32の企業の従業員約1800人がフーマフレッシュで働くことになった。また、ウォルマートや京東(ジンドン)系列の7フレッシュなどの宅配を行っているスーパーも深刻な人手不足になったため、同様の従業員シェアリング制度を続々と始めた。
2月20日には中国人力資源社会保障部(人社部)が、「従業員の権利に配慮した契約内容であれば従業員シェアリング制度は労働法に抵触しない」との通知をしたため、地方都市にも急速に広がっていった。
この制度は、コロナ特需で突発的な人手不足に陥った企業を助けることにもなったが、自宅待機になっている多くの従業員に対しても明るいメッセージとなった。
電子機器製造のレノボは、工場のある武漢市、合肥市、深圳市、恵州市、成都市で、地域貢献として従業員シェアリングを行った。工場の感染防止対策を確立し、パソコン、サーバ、スマートフォンの組み立て、包装などの仕事を用意し、近隣の飲食業、ホテルなどの従業員約500名をシェアリングした。目的は、地域社会の経済を守るためだった。
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