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ビジネス環境がますます変化する中で、データドリブンによる意思決定の動きがさらに加速している。当たり前のことだが、よく考えると生じる疑問の1つが、データドリブンにより「どれだけ判断精度を向上できるのか?」ということだろう。ガートナー バイス プレジデント,アナリストのガレス・ハーシェル氏が、意思決定における「合理的」「原理的」「協働的」「直感的」の4つ手法を解説するとともに、あるべき推進法を提言する。
データドリブンな意思決定には「強み」だけでなく「弱み」もある
世の中で生み出されるデータが種類と量の両面で急増を続ける中、データをさまざまな事象の証拠として意思決定に役立てる、いわゆる「データドリブン」の動きがますます本格化している。
消費行動の多様化や複雑化を背景に、従来からの経験則による消費行動の予測難度は増しており、これに対してデータによる現状把握の精緻化を通じて、予測精度を確実に高めてきた。業務の多様化と複雑化、環境変化の加速なども要因に挙げられる。
ただし、「データドリブンへの偏重は、意思決定において(実は)決して望ましいものではありません」と指摘するのは、ガートナー バイス プレジデント,アナリストのガレス・ハーシェル氏だ。
ハーシェル氏によると、意思決定の手法は「合理的」「原理的」「協働的」「直感的」の4つに大別され、データドリブンはこのうちの合理的な手法に含まれる。
その強みは「一貫性があり、意思決定プロセスを改良できること」(ハーシェル氏)だが、判断に多くのリソース(データ)が必要なため、手間暇を要し、かつ「うわべだけの正確さ」に惑わされやすいことが弱点だ。
「データは生成手法によって、信頼性が大きく変わります。ただ、健全な疑念を持ち続けにくく、結果として誤った判断を下してしまうことも少なくないのです」(ハーシェル氏)
他の手法の強みと弱みは次のようになるという。
- 原理的:行動原理に基づく判断で組織のモチベーションを高く保てる一方、判断から客観的な視点が削がれがち。
- 協働的:組織全体として知見を活かせる一方、判断に時間を要し、他人に同調する集団志向のリスクもある。
- 直感的:迅速な判断が可能だが、一貫性を保つことが難しい。
- 合理的:一貫性があり、意思決定プロセスを改良できること。判断に多くのリソース(データ)が必要なため、手間暇を要し、かつ「うわべだけの正確さ」に惑わされやすい。
複数視点での判断でより良い意思決定を
意思決定のいずれの手法も“強み”と“弱み”を併せ持つ。この中でのより良い意思決定に向け鍵を握るのが、それらの適切な組み合わせによる弱点の補完だという。
例として挙げたのが、医療での臨床治療だ。問診で得られるリソースだけでは合理的な判断が下しにくい場合にも、直感的は判断による「緊急手術」の必要性の気づきを基に、「セカンドオピニオン」による協働的な判断による望ましい治療行為、さらに「苦しみを和らげる」という原理的な判断による「手術後の患者のフォロー」と、各種制約の中でアクションを確実に進めていける。
「つまり、より良い意思決定を行うには、複数の視点で事象を捉える必要があるということです。データドリブンはたしかに1つの大きな要素となりますが、それが唯一の要素であってはなりません」(ハーシェル氏)
一方で、企業では従来からデータやアナリティクスの活用が進められてきた。その手法は次の3つの順に段階的に高度化するのだという。
最初は、データでどんなアナリティクスを実施するかを事前に人が決定し、その結果を意思決定に役立てる方法だ。狙いはデータによる「意思決定の支援」であり、データドリブンを進める企業の大半は現在、この段階にある。
次が、機械がデータを基に意思決定にまつわる提案を行うものである。データによる「意思決定の拡張」と言える。たとえば機械が顧客への商品のレコメンド方法を提案し、人が承認後、実施する。AI利用が広がる中で現在、大きな期待を集める手法だという。
最後が、「意思決定の自動化」だ。この段階に至ることで、機械がデータを基に自立的に意思決定を行い、人の役割は機械の意思決定の監査となる。化学プラントなどでの現場データを活用したプロセス・オートメーションなどが代表だ。
「ただし、意思決定の自動化では検証漏れのリスクが危惧されます。技術的な難度も極めて高く、必ずしもこの段階に到達する必要はないでしょう」(ハーシェル氏)
【次ページ】データドリブンに用いる分析手法を5つに大別
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