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2022年6月に、経済産業省と東京証券取引所が選定する「DX銘柄」の1社に選ばれたIHI。同社のように規模が大きくかつ歴史の古い企業ほど、DXのような大変革を伴う施策を成し遂げるのは難しいと言われる。伝統的に、自分たちが作るモノの「手触り」を大切にする伝統的な日本企業であればなおさらだ。そんな中、同社はこれまでどのような困難に直面し、それをどのように乗り越えてきたのか。2017年に経済産業省から同社に転身し、現在CDO(最高デジタル責任者)としてDXの取り組みを率いるの1人といえば、IHI 常務執行役員 高度情報マネジメント統括本部長 小宮義則氏に話を聞いた。
聞き手、構成:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹
聞き手、構成:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹
「DX指針三箇条」を掲げて企業文化の変化に取り組む
弊社のような日本のモノ作り企業には伝統的に、自分たちが作るモノの「手触り」を大切にする文化があります。この文化にはいい面もたくさんあるのですが、ことDXとなるとマイナス面の方が多いように感じます。モノを作ることにこだわるあまり「モノからコトへ」という時代の流れに付いていけずに、デジタルやDXの真の価値をなかなか理解できない人がいまだに少なくありません。
そこで現在弊社では「DX指針三箇条」を掲げて、企業文化の変革に取り組んでいるところです。
DX指針三箇条
社会課題とお客さま価値を意識する
ソト/ヨコ/タテとつながり、対話する
データにもとづき、改革を貫徹する
三箇条のうちの1つ目として挙げているのは、「社会課題とお客さま価値を意識する」ことです。ごく当たり前のことのように思われるかもしれませんが、製造業で長く働いてきた人たちの多くは知らず知らずのうちに内向きの発想にとらわれてしまって、お客さまや社会のニーズから得てして乖離しがちです。
ちなみに私自身はもともと経済産業省で役人として働いていたのですが、当時はよく「霞が関は縦割り組織だ」と揶揄されていました。しかしその後経済産業省を辞めてIHIに入ってみると、「中央省庁より製造業の方がよほど縦割りだ」と感じます。
弊社には現在18のSBU(Strategic Business Unit)があるのですが、多くの社員はいったん特定のSBUの特定の部門に配属されたら、基本的にはずっとそこから離れることはありません。割り当てられた部門で同じ仕事にだけ携わっていますから、その後運よく出世して役員クラスに昇格できたとしても、50歳を過ぎた時点で初めて会社全体の事業のことを意識し始めることになります。
それまではひたすら自分の部門のことだけを考えていればよく、会社として社会課題やお客さま価値に相対するという視点を持ってこなかったわけですから、50歳を過ぎてからそれをやれと言われても明らかに遅すぎます。
こうしたことを社員に話すと、よく「いや、そんなことはありません。この間もお客さんの担当者の方と飲みに行きましたし」といった返事が返ってくるんですが、「じゃあお客さんの会社全体としての方針は把握できている? 社長同士ではもっと違う話をしているよ」と指摘すると途端に黙ってしまいます。そうやって視座を上げてお客さまや社会全体の課題をとらえて、それらにしっかり応えていくためには、やはり若いうちから会社全体の視点に立って物事を捉える訓練を受けておく必要があると思います。
縦割り組織の外に出て外界と積極的に交わる
三箇条の2つ目は、「ソト/ヨコ/タテとつながり、対話する」ことです。社会課題やお客さまの価値を知るためには、自社の縦割り組織の中に閉じこもってばかりいてはダメで、そこから外に出て外界と積極的に交わる必要があります。ここで言う「外界」には、ソト(外)とヨコ(横)、タテ(縦)の3方向のベクトルがあります。
ここで言う「外」とは、社外のことを指します。取引先の担当者だけではなく、もっと広く社外の友達を作って広く外界のことを知る必要があります。そして「横」は社内の他のユニットのことを指していて、自身が所属するSBU以外のユニットの人たちとも積極的につながって情報や意見を交換する。そして「縦」はバリューチェーンのことを指していて、営業・設計・調達・生産・建設・サービスという一連のバリューチェーンの中で、自身が担当するもの以外の担当者とも積極的にコミュニケーションを図る必要があります。
そして三箇条の3つ目として、「データに基づき、改革を貫徹する」ことを挙げています。これまでは縦割り組織の中だけで情報を共有して、何となく互いの阿吽の呼吸で仕事をしていました。こうした仕事のやり方はよく「KKDD(勘・経験・度胸・どんぶり勘定)」などと揶揄されますが、外部と積極的に交わりながら仕事をしていくとなるともはやこうした曖昧なやり方は通用しません。社外や他のユニットとは阿吽の呼吸は通用しませんから、客観的なデータを基に物事を進めていく必要があります。
しかし多くの日本の製造業ではこれまで「モノの手触り」や「内輪のすり合わせ」を重視する一方で、客観的なデータの収集や分析を軽視してきたため、いざ改革を行おうとしてもデータではなく思い付きで物事を始めてしまい、結局失敗に終わってしまうわけです。
【次ページ】サイロ化したシステムを連携すべくデータ標準化に取り組む
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