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コロナ禍では店舗の休業を余儀なくされるなど、受難の時期を経たJ.フロントリテイリング。再成長を目指し、データとデジタルテクノロジーを軸に新たな顧客接点を創る取り組みを次々に繰り出している。グループ各社とともに進める「リアル×デジタル戦略」のもとメタバース・Web3を取り入れた施策の事例や、それらのアクションを支えるデジタル人材育成の考え方について、グループデジタル統括部長の林直孝氏に話を聞いた。
メタバース、Web3を活用し新たなビジネスモデルを創る
我々は、「デジタルテクノロジーを活用した新たなビジネスモデルの構築」を中期経営計画に定めていますが、まず「次世代の顧客体験」をどのように目指したのかを説明します。
「デジタル戦略コミッティ」の中でも特に「デジタルテクノロジーを活用した新たなビジネスモデルの構築」に取り組む分科会は若手のメンバーが多く、どのようなテクノロジーを使ったらよいか多くのアイデアが出ました。そこで共通していたのが、メタバースの領域でした。折しもメタバースやWeb3というキーワードが広まる中で、それを私たちのビジネスを進化させるために使っていこうと、構想を立てました。
今、世の中で語られているメタバースは、多くの場合バーチャル空間のみで完結するものですが、私たちはそれを「デジタルメタバース」と呼んでいます。一方、リアルの店舗の価値を高めることにもメタバースが使えると思い、AR(Augmented Reality : 拡張現実)を用いてリアル店舗にバーチャルコンテンツを重ね合わせる「リアルメタバース」も我々のビジネスに適用可能だと考えています。
また、リアルとバーチャルが融合する空間の中で、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を使ってデジタルコンテンツを販売するということも構想しています。今、NFTというと、コレクティブなアート作品を売買するものというイメージがついていますが、そうしたものに限られません。
たとえば今、我々が店頭あるいはオンラインで販売しているような商品とNFTを紐付けて購入いただく、あるいは物理的なモノではない、たとえば何かに参加する権利をNFTとして購入いただくといったことも考えられるでしょう。そうしたNFTの売買や権利行使の履歴も顧客データとして活用することで、提供する商品やサービスのさらなる品質向上に生かすことも、次のビジネスモデルとして考えています。
このような構想は、事業会社の方たちと対話をしながら、JFR本社の我々が主体となって、実現に向けた仕組みや戦略・戦術を考えています。
若手を中心にメタバース施策の施行を重ねる
実はこれまでにも、メタバース空間の取り組みは百貨店とパルコ、それぞれで実施しています。
百貨店では、HIKKYが開催するVRイベント「バーチャルマーケット」に「バーチャル大丸・松坂屋」をすでに5回出展しました。回を重ねるごとに来場者が増え、メタバース空間で我々がやるべきこと、やったら喜んでいただけることの知見が貯まってきました。
2022年8月の4回目の出展時は、2週間ほどの開催期間中に約25万人の方にご来場いただきました。販売したのはごちそうグルメと食品3Dモデルですが、メタバース空間でも百貨店らしさを感じでいただこうということで、アバターによる「接客」を試みました。
この企画に1回目から参画しており実質的な運営責任者であるギフト担当の田中さんや、日々バーチャル空間で活動されている方々にアンバサダーとして接客いただきました。3回目の出展時と比べ接客を始めた4回目は販売点数が倍に伸び、メタバース空間でも「接客」の価値が明快に実証された形です。
接客のほかにも、バーチャル大丸・松坂屋の屋上に遊具やビアガーデンなどを置いて来場者を歓待しました。昔の百貨店にはたいてい屋上遊園がありました。当社グループの店舗でも、松坂屋名古屋店などにはありますが、さまざまな理由で減少しています。リアルに再び屋上遊園を作ることは考えにくいですが、メタバース空間でアトラクションとして提供することは、今後の取り組みにとってもヒントになると思います。
一方、パルコのデジタルメタバースの取り組みとして、渋谷パルコで開かれた「BE:FIRST展」が挙げられます。2022年末、NHK紅白歌合戦に出演した7人組ダンス&ボーカルグループ「BE:FIRST」がまだデビューしたばかりの2021年に、渋谷パルコのGALLERY Xという会場で、彼らの写真展を開きました。
同時に、リアルの会場にお越しいただけない全国のファンの方にも写真展を楽しんでいただこうと、GALLERY Xを模した空間をメタバース上に作り上げ、有料(500円)で入場してご覧いただけるようにしました。
リアルの会場にご来場いただくのと限りなく近い鑑賞体験を提供しただけでなく、いくらでも拡張できるというバーチャル空間の利点を生かし、バーチャル会場限定のコーナーを設けてリアル会場には展示できなかった写真を展示したり、バーチャル会場限定でグッズの先行販売をしたりして好評を得ました。
このような取り組みの延長線上で、先ほどお話ししたリアルメタバースとデジタルメタバースを展開し、その中にNFTを組み込んでいくというアイデアが出てきたわけです。
これを実際に進めるためのプロジェクトを2022年11月に組成して、各事業会社からプロジェクトメンバーを社内公募したところ、百貨店、パルコの空間デザイン・内装を行っているパルコスペースシステムズの若手社員や、JFRカードの社員など、実に多様なメンバーが集まりました。2023年度はさらにメタバースの試みを重ねて、「新たなビジネスモデル」としての確立を目指します。
【次ページ】自社オリジナルの教育コンテンツで「デジタルコア人材」を育成
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